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第53話

1回や2回ではないメッセージと着信。 大半が水樹から、ちらほら水無瀬という落合には見慣れない名前が混じっていたが、字面が似ているせいで一瞬全て水樹からと勘違いしてしまう。 2人は一瞬だけ顔を見合わせて。 龍樹は慣れた動きで一つの番号を呼び出した。 コール音が、1度にも満たずに途切れて。 『せめて既読をつけろって何回言わせんだこの愚弟がっ!!』 劈くような怒声が響き渡って、反射的に携帯から飛び退いた。 「…んでお前が水無瀬の携帯出るんだよ」 『ここまできて龍樹が素直に俺の携帯にかけ直すとは到底思えなかったから借りといた』 龍樹が気まずそうな顔をする。 年相応な姿を見れたのはなんだか貴重で、それが可愛くて、落合は少し笑ってしまった。 笑われたことに気付いた龍樹が、ジトッとこちらを睨んでくる。そんな姿もまた、可愛げがある。 その先の会話を聞き取ることは出来なかったが、龍樹が電話しながら落合の背を軽く抱いてその髪を弄び始めたので、大人しくされるがままになって、心地いい腕に包まれていた。 そして程なくして通話を終えた龍樹が、はぁ、と大きな溜息をついて後手に頭を掻いた。 「…双子の兄貴なんですけど。滅多に怒らないせいか怒らせるとすげぇ面倒で」 「水樹くん、だよね?」 「知ってるんですか?」 「うん…2回くらい会ったことあるよ」 言いながら、その2回を思い出して苦い顔をする。 どちらもとてもいい思い出とは言えないものだ。 だけどそれを言ったところで、きっと龍樹は気を悪くするだろうし、水樹の警告は至極真っ当なものだ。 そしてその警告を無下にして、龍樹と番になった。 運命の番だと出会って、ただただ愛しくて。立場的な障害はあれど番となれたこと自体はやはり幸せだ。 けれど祝福されないと分かりきっているのも、それはそれで後ろめたい。 それも龍樹の一番近しいとも言えるだろう相手だ。龍樹だって、他でもない水樹に心から祝福されたいだろう。 自然と俯いてしまった落合を見て、龍樹はどこか神妙な顔をする。 「なんか、言われました?」 「…え」 「あいつ口達者だから気にしない方がいいですよ」 キリがないんで、と龍樹は言ったが、落合はそれに頷くことができなかった。

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