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第54話

すっかり日が暮れて、2人は連れ立って寮への帰路へ着いた。 その間に聞いた、ずっと気になっていたこと。 「あの…龍樹くん、Ωが嫌いなの?」 龍樹は一瞬だけ瞠目して、すぐに首を振った。 それをすぐに信用するのは難しくて不躾に見つめると、今度は少し苦笑する。 「Ω嫌いなのに番作るって、俺すげぇ下衆野郎じゃないですかそれ」 「そ、そんなことないよ!」 「わかってますよ」 そんなつもりじゃなかったことくらい、と続けた龍樹の顔は晴れやかだ。 こんなに簡単に答えてくれて、明るい顔を見せてくれる。 あんなにも悩んだのが馬鹿らしい。 ああ、そうだ、こういう顔をして欲しかったのかもしれない。 落合は1人納得して、頬を赤らめた。 校舎から寮への道はあっという間で、その入り口に人影がふたつ。 二つとも馴染みはない姿だが、落合にはそれが誰のものなのかすぐにわかった。 「…げ」 「げ、とはまた酷いなぁ」 「言い訳聞いてあげようか」 「何もありません」 降参、と言わんばかりに両手を挙げた龍樹に対し、ほー、と態とらしく相槌を打った水樹はそのまま龍樹を見下ろして…龍樹の方が背が高いはずなのに、そう、見下ろして、その背中に見事な回し蹴りを入れた。 「!?〜〜〜〜〜っ!」 「うわーこれは痛い…」 「お前の飯ないからな!」 「しかも嘘吐くし」 「バカ瀬うるさい!俺が全部食べる!」 「太るよ」 「ほんと黙れお前!」 この一連の流れが余りに鮮やかすぎて、落合は完全においていかれた。 さっきまで穏やかに自分と談笑していた想い人は強烈な蹴りを喰らってその場にしゃがみこんでいるし、蹴りを入れた張本人は記憶に濃い可愛らしい笑顔はどこへ行ったのか、般若よろしく怒り露わに仁王立ちしている。 「〜おま、今の本気だろ!」 「まさか、本気でやったら龍樹の背骨が無事じゃ済まないよ」 痛みで涙目になった龍樹をどこか楽しそうに見下ろす水樹は、トントンとつま先で地面を打った。

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