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第56話

「まぁまぁそんなに身構えないでくださいよ、ほんとにちょっと聞きたいことがあるだけだから」 つい昨日の出来事に耽ってドアの前に立ち尽くした落合を避けて、水樹は慣れた様子で真っ暗だった部屋の電気を探し当てて灯りを付けた。 中は暫く使われていない部室のようで、古びたロッカーの他には長椅子だけが寂しげに点在している。 「…それで、聞きたいことって」 「それ、龍樹ですよね」 落合の言葉を遮って水樹が発したそれはもはや質問ではなく、断定。 「な、ん…」 「その首の傷パッドの下、龍樹がつけた噛み痕ですよね」 言い逃れは許さないと言わんばかりに畳み掛けられる。 必要以上に詳しいその言葉は、冷たく重い。 落合は視線を落とし、ぎゅっと拳を握った。 大丈夫、落ち着け、怖くない。 何があったって、龍樹くんがつけてくれたこの噛み痕だけで生きていける。 緊張で高鳴る鼓動を落ち着けるために一つ深呼吸をすると、強く意思を持った瞳でぐっと水樹を見上げた。 「龍樹くんはやめたほうがいいっていう君の忠告を忘れたわけじゃない」 こうして水樹に詰め寄られることは予想できた。 だから、昨日から何度も何度も反芻した言葉を口にする。 できるなら、分かち合いたい。 彼の大切な双子の片割れなのだ。 「けど、どうしようもないんだ…惹かれてやまない、龍樹くんしか考えられない。だって、だって俺たちは」 運命の番だから。 そう告げたとき真っ直ぐに水樹を見据えたが、その表情から何かを読むことはできなかった。

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