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第57話

沈黙が場を支配する。 しん、と実際にはない音が聞こえてきそうで、けれどここで視線を外したらいけない気がして。 すると、水樹の方から視線を外されて、何かを考えるような仕草をした後に小さな声で「運命ねぇ…」と呟いた。 「水樹くんだって運命の番くらい知ってるだろ?目が合った瞬間に通じ合う魂の番…都市伝説なんかじゃない、自分が自分でいられなくなくなるほど焦がれてやまないんだ。どうしようもなくて、龍樹くんがα家系だってこととか、立場でさえどうでもよくなる…」 暴力的なまでに、欲しくなる。 そう続けた落合は、自分の目から涙が溢れたことに気付いた。 自分で言っていて、どれだけのことをしでかしてしまったのか改めて実感する。 α家系にΩは歓迎されない。 Ωを伴侶としようものなら、龍樹も親族で白い目で見られるだろう。 そして教師でありながら生徒である龍樹と番になった自分は、きっと職を追われる。 自分の未来だけならまだしも、龍樹の立場まで悪くしてしまったのだ。 「龍樹くんは若い…だからこの先捨てられるかもしれないし、それでもいい。それでも俺は幸せだから…」 龍樹が将来自分を捨てたとしても、Ωの自分は一生龍樹に囚われたままだ。 けれど構わない。 龍樹が幸せになれるなら、自分よりも龍樹を幸せにできる誰かがこの先現れたなら、その時は潔く消えるつもりだ。 「αの水樹くんにはわからないかもしれないけど…Ωにとって運命のαに噛んでもらうって、この上ない幸福なんだよ」 昨日龍樹の歯がうなじに食い込んだ時、それを悟った。 もうこの記憶だけでいい。 この噛み痕さえあれば、きっと生きていける。 本気でそう思ったのだ。 そして再び水樹に視線を合わせたら、水樹はきょとんと不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

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