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第66話

きい、とドアが嫌な音を立てて、水樹がそこから一歩出ようとして。 「そうだ先生」 「ん?」 再びパタンとドアを閉めた。 わざわざドアを閉めるなんて、なにか聞かれたくない話なのかと少しだけ身構えてしまう。 「俺ね、運命ってあると思うよ」 なんて言うものだから、呆気にとられてしまった。さっきの全否定は一体何だったのかと。 しかし次の言葉に、愕然とした。 「多分叔父さんが、俺の運命の人だった…もう随分前に死んじゃったから、わかんないけどね」 最後に会ったとき、叔父は言ったそうだ。 水樹は必ず俺が幸せにする。 水樹が俺の運命の番だ。 俺にしか水樹は幸せに出来ないんだ。 落合は何も言えなかった。 噛み痕の相手は運命の人なんじゃないのか、と詰め寄った少し前の自分を殴りたかった。 そして水樹は悲しそうな笑顔で、 「先生は龍樹と…運命の人と、幸せになれるといいね」 そう言い残して、今度こそ部屋を出て行った。 「水無瀬が運命の人だったら、どんなによかったかなぁ」 一人廊下でそう零した水樹の顔は明るい。 代用品でも構わない。 そう確かに言った。 代わりでもいいから側にいる権利が欲しかった。龍樹から奪おうなんて思ったことがないのは本当だが、本音を言えば、やはり欲はあった。 だからこそ、結果的に龍樹から水無瀬を奪うという末路に行き着いてしまったのだから。 その心は、未だ龍樹のところにあるようだけれど。 「龍樹が先生のものになったら、水無瀬も俺のものになってくれたりしないかなぁ」 ま、そんなうまくいかないか。 早く帰ろう。 きっと部屋の前で、大切な弟と愛しい人が待っている。

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