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第68話
「む、息子さんを僕にください…!?」
「それを言いたいなら別に構いませんけど、多分あんたがうちの姓に入るんじゃないですか」
龍樹の冷静なツッコミが心を抉った。
自分だけが舞い上がっているのが顕著だ。
がっくりと項垂れた落合を見て、龍樹が小さく溜息を漏らす。それを聞いてさらに落ち込んでしまう。
番にはなった。
けどそれだけなのだ。
好きだとか付き合おうとか、ましてや結婚なんて。そんなことは龍樹の口から一度も出たことがない。
いつだって落合からで、それだってさっきのように華麗にスルーされる。
番関係自体が強固な繋がりではあるものの、それだって落合の発情期に龍樹が煽られたという形だった。
そんなつもりじゃなかったと言われたら、それまで。
ただ不安なだけなのだけど。
あまりに早急に関係を深めてしまったから。
『…落合先生は、悪くありません』
校長先生に頭を下げた彼の姿が過ぎる。
水樹の言った通り、2人の関係はあっさりと認められた。運命で結ばれた2人をこの目で見ることができるとは、長生きしてみるものだとさえ。
チラリと龍樹を見やると目があった。その瞳は柔らかい。
愛想に欠ける彼の瞳は本当に雄弁で、視線一つで落合は簡単にほだされてしまう。
今だってそう。
あの柔らかい視線を向けてくれて自分だけがその瞳に映っていることが嬉しい。
もう心の靄なんて隠れてしまった。
我ながら単純すぎるとは思う。
「ところで、龍樹くんってご実家どこなの?」
「鎌倉です」
大仏の顔が浮かんだ。
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