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第70話
「…って田川先生が叫んでたよ」
『まぁ、そうでしょうね。俺も驚きましたし』
「じゃなくて!龍樹くんもだよ!なにあの進路相談!」
『なにも間違ってないと思いますけど』
「俺が怒られましたけど!」
『うるせーハゲって言っとけば?』
「無理だからね!?」
電話口でキャンキャン吠える落合の話を聞いているのかいないのか、それきり龍樹からの返事が適当になっていった。
するとやがて電話の向こうから水樹の声が微かに聞こえてくる。
『え?別にいいだろどっちがどっちでも…じゃ先生、土曜に』
「ちょ、え、えぇえ…」
そして無情な音が電話から聞こえてきた。
誰とも繋がっていない電話を見つめてがっくり肩を落とした落合は、ボフンとベッドに突っ伏してそれを見詰めた。
基本的に連絡ツールとしての意味を成していなかった携帯電話。
それが先日龍樹と番になってから、通話の履歴もメールの履歴も龍樹の名前で埋まっている。
(…全部俺からなのが悲しいけど)
この短い期間でもわかるくらい、龍樹は淡白だ。
連絡はすれば返してくれる程度で、基本的に必要なこと以外は話さない。
自分も決して束縛が強い方ではないと思うが、ここまで淡白だと流石に自分ばかりと思ってしまうのも事実。
(…でも…)
『突然留学したいとか言い出すやつが2人!志望大学決まってない奴が2人!橘に至っては結婚するとか言い出すし、挙句頼みの綱の水無瀬が受験しないときた!ひどい年だ!』
寂しくなってきた御髪の色まで寂しくなりそうな田川の叫びは切実なものだったけれど。
結婚する。なんて。
(わーーー!!!)
急に恥ずかしくなってきて、落合はゴロンゴロンと狭いベッドをのたうちまわった。
当然落ちた。
終業式の翌日、つまり明日から帰省すると言っていた。その準備でもしているのだろう。
落合も週末から龍樹の実家に伺うことになっている。カレンダーにはしっかり赤丸まで。
(あと4日かぁ)
遠いなー。
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