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第73話
美しい日本庭園を一望できる広い和室。かこんと風情たっぷりの音が聞こえる。鹿威しなんて、個人の御宅にあるの初めて見た。
龍樹は部屋に通されて早々に親呼んできますね、と退室してしまったので、このだだっ広い和室に一人きり。
一人だというのに正座を崩す気にもならず、折角の庭園を見ることもなく落合はガチガチになってそこに座っていた。
すると、スパン!と小気味いい音を立てて襖が開かれて、落合は人生最高レベルの反射神経でそちらに頭を下げた。
「あ、あのはじめまし…」
「あれ?先生一人?龍樹は?」
そこに立っていたのは車庫入れから戻った水樹だった。
下げた頭が虚しい。
じわじわ恥ずかしくなって真っ赤になってしまい、顔を上げることもできなくなってしまった。
「あいつ飲み物も出してないの?何してんの?もー…ごめんね先生、緑茶焙じ茶玄米茶、それぞれあったかいのと冷たいの両方あるけどどれがいい?あったかいのでよければコーヒー紅茶もあるけど」
「あ、う…冷たい緑茶で…」
「だよね、待っててすぐ持ってくるから」
ニコッと笑った水樹が可愛くて、ほんの少し緊張が解れた気がした。部屋に入ることなく踵を返した水樹の背中を思わず呼び止めそうになる。
情けないけれど、心細くて。
もちろん呼び止めるなんてことはできず、今度はストンと静かに襖は閉じられた。
そしてそのすぐ後聞こえてきた会話に
落合はいよいよ緊張で吐きそうになった。
「あ、龍樹飲み物くらい出してあげなよ…外すんごい暑いんだから」
「あら、それはよくないわ」
「皆冷たい緑茶でいい?俺持ってくるよ」
「俺焙じ茶」
「お父さんは玄米茶がいいな」
「うわ何この人たちめんどくさ」
「いいじゃない皆緑茶で。水樹お願いね。ああそうそう、さくら屋でわらび餅買ってきたのよ。一緒に持ってきてくれる?」
「はーい」
足音が一人分だけ遠ざかって、ああ水樹くん行かないで、なんて。
スッと開いた襖の先に、龍樹と、その両親の姿があった。
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