78 / 131

第78話

風通しの良い和室は真夏の昼間でも過ごしやすい。 沙耶香が見せてくれたのは、古い大きなアルバムだった。 おじいちゃんが呼んでいたわよ、と沙耶香は早々に龍樹を追い出して、ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべて落合の隣に腰掛けた。 「どっちが龍樹か、わかる?」 沙耶香が差し出した一枚の写真には、産まれたばかりの赤ん坊が2人。龍樹と水樹が生まれたときの写真だろう。 落合は少し色褪せたその写真をじっくり見て、迷わず左の赤子を指した。 自信はある。 けど、間違ってたらどうしよう。 ドギマギしながら沙耶香の顔をそっと見ると、彼女は少女のように目を輝かせた。 「すごい!主人も本人たちもわからないのよ!」 そして沙耶香は次々2人の写真を出しては、落合に同じ質問をした。 「二卵性なのはお腹にいる時からわかっていたのだけど、生まれてみたらそっくりでみんな見分け付かなかったのよ。6歳くらいまではよく一卵性?て聞かれたわ」 そう話す沙耶香は、少女のような目の輝きを残したまま、それでいて母親の顔だった。 確かによく似ているが、やっぱり全然違う。 何がと言われると上手く説明が出来ないのだが、写真をパッと見て惹かれる方が龍樹だと、頭より先に心が教えてくれた。 一枚一枚思い出とともに楽しそうに語ってくれる沙耶香はとても生き生きしていて、心から子どもたちを愛しているのが見て取れる。 随分ゆっくり見せてもらったが、沢山あった写真は9歳夏休みというメモを境にパッタリと無くなってしまった。 落合はすぐに悟った。 『9歳の時に、俺叔父にレイプされたんだけど』 それがきっと、夏休みだったのだ。 「…この頃から、龍樹は全然私たちと一緒にいてくれなくなって…水樹が世渡り上手というか、要領の良い子だったから龍樹の様子を教えてくれたの。ほらこの写真、中学の入学式も水樹が送ってくれたのよ」 2人の初めての制服姿を見ることができなかった。そう語る沙耶香の目には、うっすら涙が浮かんでいた。 少しの沈黙。 落合はなんと声をかけたらいいのかわからなかった。 「主人も私も、優弥さんには感謝しているんです。頑なに私たちに寄り付かなかった龍樹が、会って欲しい人がいるって声をかけてくれたのがどんなに嬉しかったか…」 ありがとう優弥さん。 そう言って落合の手を握った。

ともだちにシェアしよう!