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第79話
沙耶香は龍樹の小さい時の話をたくさんしてくれた。
龍樹は本当に気が弱くて泣き虫で、沙耶香か水樹がそばにいないとすぐ半泣きだったとか。
一つ年上の従姉妹がこれまた気が強くて、水樹と盛大に喧嘩しているのを見てるだけで泣いたとか。
言われてみれば満面の笑みでピースサインの水樹の後ろで、困ったような表情でひっそりカメラを見る龍樹の写真ばかりだった。
「かっ…かわいいぃぃ…」
「でしょ?もうお揃いばっかり着せてたわ。みんな見分けがつかないから、いつも水樹が青で龍樹が緑なの。たまに逆にしたりしていたずらするんだけど、でも水樹はすぐ笑っちゃうし龍樹はすぐ泣いちゃうからバレるのよ」
お馬鹿でしょう。
沙耶香はクスクスと綺麗に笑った。
他にもたくさんあるから、と沙耶香は落合を応接間から連れ出した。
是非今日は泊まって行ってくださいとまで。
歓迎してくれているのが嬉しくて、やはり少なからず不安のあった落合は涙ぐんでしまったのだった。
別のアルバムをいくつか出して、居間でみんなで見ようと廊下に出た時。
お盆に徳利と猪口を乗せた水樹とバッタリ鉢合わせた。
「あれ、先生泊まって行くの?お猪口もう一個出そうか」
「ええ、悪いんだけどお願いできる?」
「ねぇ待って、それ俺らのアルバムだよね?龍樹の写真ってもれなく俺の写真じゃん…」
「うふふ、後でみんなで見ましょ」
はあい、とため息混じりの返事をした水樹来た道を引き返して行った。
その後姿をどこか物悲しいような複雑な表情で見つめる沙耶香は、先程までの楽しそうな様子と正反対で。
「…優弥さんは、水樹の番の子をご存知?」
「え、あ…話したことは」
「そう…すごくしっかりした子なんだけどね。ちょっと、なんというか…危なっかしいのよ。綺麗だからそう見えるのかもしれないけど」
落合は職員室での一件を思い出した。
学年トップで全国模試でも毎回片手の順位にいるにも関わらず、大学は受験しないと言い張った水無瀬を。
(…水樹くんは知っているのかな)
あの天使の微笑みの下に隠した本音を。
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