80 / 131

第80話

その日の夜はとにかく大騒ぎだった。 というのも、龍樹の祖父が落合が成人しているのを確認するやいなや、ものすごい勢いで呑ませようとしてきたのだった。 庸も酒は好きなのか結構なペースで呑んでいて、沙耶香も程々に嗜み。 ただ1人素面だった祖母に当たる人がまた厳しい人で怒号が飛び交った。 酔っ払いが何人も集まって見る双子のアルバムはそれはもう大盛り上がりで。そういう場に合わせられる水樹はともかく、龍樹の方はバツが悪そうに1人お茶を啜っていた。 「う〜〜〜ああぁ…やばい回る…」 「完全に呑みすぎですね」 「らって美味しかった〜高いお酒は違うね〜〜〜…っく」 「はぁ…」 面倒臭そうに溜息をついた龍樹は落合を部屋に連れてくると、自分のベッドに寝かせた。 ボフンと跳ねたスプリングに抗わずに身をまかせると、柔軟剤のいい香りがする。 しかしそれ以上に、立ち上った龍樹のフェロモンにクラッとした。 思わずうつ伏せになって布団に顔を埋めて、すーはー。本人がそこにいるのに、酒の力とは偉大なもので何も恥ずかしくない。 「龍樹くんの匂いがする〜」 「そりゃするでしょうね」 「やばい勃つなこれ」 「寝ろ酔っ払い」 「つめたい〜〜〜」 ぐすん。わざとらしい泣き真似には溜息すら返してもらえなかった。 ごろんと寝返りを打って龍樹の様子を伺うと、部屋着になるところで。 Tシャツを脱ぎ捨てて、乱れた髪を掻き上げたとき、落合は目敏く見つけてしまった。 左のこめかみにうっすら残る痕を。 かなり酔っていたのが良かったのか悪かったのか、落合はとろとろの思考のままふわふわする脚で龍樹の元へ。 どうした?とでも言いたそうな龍樹の顔にぽうっと見惚れて、惹かれるままにその傷痕に触れた。 龍樹は抵抗しなかった。 綺麗な顔に不釣り合いな引き攣った感触。落合はそれを何度か撫でて、ふわりと龍樹の首に腕を回し、僅かに驚きの表情を見せた大好きな顔を引き寄せてそっと口付けた。 「先生?」 「もう、大丈夫だよ」 怖いことないよ。 頑張ったね。 幼い龍樹にそう言ってあげたい。 辛かった時に側にいてあげたかった。 落合は強烈な睡魔と戦うことすらできず、そのまま眠りに落ちたのだった。

ともだちにシェアしよう!