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第81話
翌朝。
「どこまで知ってるんですか?」
当たり前だがそう詰め寄られて、真夏だというのにダラダラと冷や汗が伝った。
怒っている風でもない。
苛つきも感じない。
何を考えているのか全く想像がつかない、静かな龍樹のこの視線、落合には効果覿面なのだ。
ごめんなさい水樹くん、俺は愛して止まない運命の番のこの視線に滅法弱いんです…。
「あの、その…」
「先生」
「ごめん…」
「先生、俺は知ってることに対して怒ってるわけじゃない」
わかる、わかります。
このハッキリしない態度がイライラするんですよね、わかります。
わかるけど気まずいのだ、仕方ない。
けれどここでいつまでもぐずぐずしていたら、きっと龍樹は本格的に怒り出してしまうだろう。
「その…怪我の原因は、知ってる」
「水樹に聞いたんですか?」
「う、」
「まぁ水樹しかいないですよね。あいつなんて話してました?」
なんて、て。
落合はやっと龍樹の顔を見返した。
過去を語って聞かせてくれた水樹の姿が浮かぶ。あの痛々しい弱った背中。
話してしまっても、いいだろうか。
「叔父上に乱暴された水樹くんを助けようとして、て」
「それだけ?」
「…乱暴されてることより龍樹くんが死ぬんじゃないかって怖かったって」
龍樹は神妙な顔をして、ふーん、とたったそれだけ返した。
水樹から聞いたことは内緒の約束だったのに、あっさりバラしてしまった体裁の悪さで、落合は小さな身体をより小さくした。
「あの人が水樹を運命だって散々騒いだ挙句に自殺したことは?」
「知って…え、自殺…?」
「自殺ですよ、車で崖に突っ込んで海に沈んだらしいです。俺は内容知らないけど遺書もあったとか」
温度のない声でそう告げた龍樹は徐に立ち上がると窓を開けた。
今日も快晴、既に外は蝉が競うように鳴いている。
「だから運命なんて知りたくなかったんです」
落合は目の前が真っ暗になった。
もしかして、自分と出会ったことを後悔しているのではないかと。
番になったのも不可抗力で、それを認めてくれたのも不本意なのではと。
カラカラに乾いた喉で、そうなんだ、と言うのが精一杯だった。
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