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第90話
カラン、とラムネの中のビー玉が綺麗な音を立てた。落合の隣に腰掛けた龍樹は、あれっきりずっと黙り込んでいる。
付き合っていた人が、事故で兄と番になった。それだけでも心苦しいのに、それは事故などではなかった。
当時の状況も関係も殆ど知らない落合には、龍樹の気持ちを推し量ることはできない。
知りたいけれど、聞くことはできなかった。なんでも話せる間柄なんかじゃなかったし、何もかもを知っていることが必ずしも正しい関係とも思わないからだ。
すると、龍樹の方から口を開いた。
「…水無瀬と、付き合ってたんですけど」
それは祭りの騒々しさに負けてしまいそうな小さな声で、落合は聞き逃さないように必死に耳をそばだてた。
「あの時、水樹が発情期で…俺、水樹に乗っかって…水無瀬が丁度ノート貸しに来てくれた所だったから未遂だったんですけど、そのままヒート抑制剤の副作用で倒れたんです。目が覚めたら、…」
その時にはもう、水樹は噛まれた後だったのだろう。龍樹はそこを言葉にはしなかった。
「翌日水無瀬と学校で会って、別れました。それはいいんですけど…当てずっぽうに俺らの誕生日入力したら鍵が開いて、そのまま噛んでたって聞きました」
くす、と控えめに笑った。
横目でチラリと見えた顔は、自嘲に染まっていた。
「水樹が俺に嘘吐くなんて思わなかった。水無瀬に噛まれてもいいなんて思うくらい水無瀬のこと好きだったなんて知らなかった。水無瀬あいつ、俺と水樹で二股かけてたんですかね?本命は水樹で、それって俺すげぇ馬鹿みたい…」
「それは違うよ!」
落合は思わず遮った。
「水樹くんは、確かにずっと水無瀬くんを好きだったって…でも、でも龍樹くんから奪うつもりなんかなかったんだって言ってたよ!その嘘だって、2人はきっと龍樹くんを傷つけたくなかったんだよ…!」
言ってて、落合の方が泣けて来た。
何に泣けて来たのか、自分でもよくわからなかった。
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