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第92話

挫いた足では歩くこともままならず、落合はその日も橘家に泊まることにした。 2人並んで遠くの空に上がる花火を見て、いつの間にか繋がれた手がしっとりとした手汗に濡れていたが、それすらも心地良かった。 永遠にこの時が続けばいいのに。 そう願わずにいられなかったが、もちろんそういうわけにもいかない。暫くして花火が終了すると、静かだった通りに人気が戻ってきた。 楽しそうな人々をなんとなく見送っていると、龍樹の携帯が震えた。 それにハッとして、見れば水樹から。 そうだ、こんな呑気に花火なんて見てる場合じゃなかったんじゃ。 2人で僅かな焦りの表情を合わせて、龍樹が意を決して電話に出た。 「水樹?水無瀬は…」 『あ、もしもし龍樹?ごめんね心配かけて…やだなぁこの年で迷子なんて、忘れてね?やー参った参った』 あっけらかん。 その言葉がぴったりくる声色が、落合の耳にも僅かに届いた。 『携帯の充電切れちゃうし、親切に道案内申し出てくれたお兄さんたちも迷子になっちゃうし、僕今朝の占い3位だったのにね?』 「知らねーよ…水樹は?」 『いるよ。なんでこの子裸足で走ってきたの?足ボロボロだよ』 『お前が変なのについて行くからだろ!』 元気な怒号が飛んできて、心の底からホッとした。隣の龍樹は、もっとホッとしたような表情をしている。 二、三言葉を交わして通話は終了した。続けて龍樹が家に迎えを頼む電話を入れて、水樹たちの合流を待つ。 やがて姿を現したのは、水無瀬に荷物の様に抱えられた水樹だった。その足は、酷い有様で。 「あー重たかった…」 「びょ、病院とか行った方が…」 「酷いなこれ…」 「んー、血止まってるし大丈夫じゃない?」 「大体こんな塗装されてもいない道を裸足で走るなんて正気の沙汰じゃないよね」 「だから!」 「ありがとね、嬉しかった」 ぽんっ。 水無瀬の白い手が水樹の頭に乗せられて、一瞬遅れて水樹の顔から火が出た。真っ赤になって小さくなって、そのまま俯いてしまった水樹を見て、誰だよお前、と龍樹が呟いたのを、落合だけが拾ったのだった。

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