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第96話

「…優弥、俺さ」 「あ、ちょっとごめん」 突如携帯が震えて、メッセージを受信した。父だろうかと思ったら、意外にも相手は龍樹。 優弥はギョッとして慌ててメッセージを開いた。 『大事ないようでよかったです』 終了。 切ない。 ガックリと肩を落とした優弥は、なにか会話を繋げられないかと模索したが、特に何も面白いことはない。 妹に身長で抜かれたことくらいか。でも知られたくない。 うーんうーんとスマホ片手に唸っていると、隣の翔太郎が突然ふっと笑った。 「…お前、変わんねぇな」 そう言って笑った翔太郎は、随分変わった。 こんなに寂しそうに笑う奴じゃなかった。明るくてお調子者だったあの頃の翔太郎はもういない。 それも自分のせいだ。 翔太郎のSOSに気付けなかった過去の自分の。 「…翔太郎、」 「ゆうやぁ〜帰るぞ〜」 ようやっと姿を現した父は、やはりというかなんというか酒瓶を片手に抱えていた。 今夜は父と飲むことになりそうだ。捻挫しててもお酒っていいんだっけ、とぼんやり思う。 「…じゃ、行くね」 「あ、優弥!」 制止の声は無視した。 捻った足をひょこひょこ引きずって、父のもとへ。後ろは振り返らなかった。 うなじにある2種類の傷痕が疼いた気がした。 (…会いたい) 家に帰ったら、電話しちゃおうかな。 この次の翔太郎との再会は、一番嫌なタイミング。 お盆に、龍樹が優弥の実家に来るのを駅まで迎えに行った時だった。 「ねぇねぇお兄ちゃん、このワンピでおかしくない?メイクもうちょっと控えめな方がかわいいかな?髪崩れてない?」 「はいはいかわいいよ、俺の妹世界一かわいいよ」 「あーーー!適当言ってる!」 「ねぇ優弥、お母さん怖く見えない?口紅の色赤過ぎるかしら?ああ、やっぱり新しい服買えばよかったわぁ…」 「なんでそんなに気合い入るの…意味わかんないよ…」 龍樹との待ち合わせの時間が近付くにつれ、女勢が騒がしくなる。無理もない、母も妹もαの男性に会う機会などそうそうないだろう。 しかし相手は既に番もちである。 しかもその番が優弥である。 それに引き換え、父はついさっきまで寝ていて、未だに寝癖をつけて寝間着のままだ。父は着替えた方がいい。

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