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第98話

駅から自宅までは車で10分ほどだ。 龍樹の実家は立派な高級車だったので、こんな所謂ファミリーカーに乗ってもらうのがなんだか申し訳なくすら感じたが、龍樹は少しも気にした様子もなく。 「先生運転できたんですね」 「この辺は出来ないとどこも行けないからね、ちょっと行ったらもう畑だもん」 「水樹も免許取るって合宿行ってますよ」 「水樹くん足大丈夫だったの?アクティブだね…」 「あいつジッとしてられないから」 クス、と龍樹は楽しそうに笑った。 免許を取りに行けるくらいだから、足の怪我は大丈夫だったのだろう。 それだけでも安心した。 外の景色が段々とのどかになってくる。その光景をぼんやり眺めながら、龍樹はポツリと零した。 「水樹、変わりましたよ。変わったというか…戻った、かな」 それ以上は語らなかった。 ただ少しだけ、寂しそうではあったけれど。 家の前に着くと、母と妹の愛弓が門前で出迎えてくれた。 「わざわざ遠いところありがとうございます、狭い家ですけれど上がってください」 ワンオクターブ高い母の声を聞きながら、愛弓が肘で小突いてくる。 「ちょっと!イケメン!しかもα!ずるいお兄ちゃんの癖に!」 「お兄ちゃんの癖にってなんだよ!」 小声で兄妹喧嘩を交わしながら、今度はオホホなんて聞いたこともない母の笑い声が聞こえてくる。 愛弓と二人、変なものを見るような目で母の背中を見てしまった。 早朝から母が必死で大掃除した結果、なんとか見れる程度まで片付いた居間。4人用のこじんまりしたダイニングテーブルについた龍樹は、愛弓が出した麦茶を一口飲んで、居心地悪そうに黙り込んでいる。 その理由は、もちろん龍樹が結構な人見知りというのもあるのだろうが、それ以上に、正面に座った父からの無言の圧力が辛いのだろう。 流石に着替えて寝癖も直したらしい父は、無言で部屋に入ってから一言も喋らない。 もっと言うと、龍樹の自己紹介に会釈もしなかった。 頑固オヤジだとは思っていたけれど。 こんな典型的な頑固オヤジするとは。 優弥は母と目配せして、溜息をついた。

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