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第100話

「幸せの定義は人それぞれだと思うんですよね」 夜が更けて、家族みんなが寝静まった頃。優弥の自室に敷かれた滅多に出てこない客人用の布団に潜り込んだ龍樹はポツリと語った。 「例えばの話、俺が今こうしてあなたの隣にいるだけで幸せだと感じるとしても、10年後はそれだけじゃ満足できなくて不幸だと感じるかもしれない。同じ人でも状況によって変わるものですよ、幸せなんて」 優弥は返す言葉を探してしまった。 全くもってその通りだと思ったから。 だから悲しいけれど離婚が後を絶たない訳で、番の解消なんてこともあるのだ。 優弥が黙り込んでいると、龍樹は体を起こして少し苦しそうに微笑んだ。 「…がっかりしました?」 なんていうものだから、慌てて首を振った。 「そんなことない、その通りだと思う…嬉しかったよ、俺」 きっとベタに「必ず幸せにします」と言ってくれても、自分は手放しで喜んだに違いない。 けれど、龍樹が確りと将来を見据えていることがよくわかって、その将来のビジョンに自分がいることが嬉しくて。 「…龍樹くん、そっち行っていい?」 くっつきたい。 そのフェロモンを胸いっぱいに吸い込みたい。 「嫌です。暑い」 撃沈。 クーラーつけてやろうかと思ったが、翌朝声が枯れるのは目に見えていたので諦めた。 今、甘い雰囲気だったと思うんだけどなぁ…。 優弥はちょっぴり切なくなりながら、胸いっぱいには吸い込めない龍樹のフェロモンを感じて、夢の世界へと旅立った。 「龍樹さん龍樹さん、じゃーん!秘蔵!お兄ちゃんの黒歴史アルバム!」 「あゆみぃ!!」 「お兄ちゃんの面倒見切れないと思ったら遠慮なく言ってくださいね、愛弓が龍樹さんと結婚するから!」 「お前ほんとふざけんなって!」 翌日は朝っぱらから大騒ぎ。 母がバタバタ家事をしているのは仕方ないがやたら物音が大きいし、父はいつも通りの寝間着姿に寝癖頭で大音量のテレビを見ている。龍樹に突っかかるのはやめたらしい。 整理整頓と手入れの行き届いた大きなお屋敷で、優雅な生活をしてきた龍樹にはあまり見せたくない光景だった。 いや、お酒が入ると橘家も結構激しかったが。 ごめんねうるさくて、と小声で伝えると、龍樹は珍しく楽しそうに笑った。 「賑やかでいいじゃないですか、うちだって昔は凄かったですよ」 想像できない。

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