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第101話
朝からやたら大きな物音を立てていると思ったら、気合の入った朝食を用意していたらしい。
記憶にある落合家の朝食は、食パンかロールパンにゆで卵。ざく切りのトマトが山になって出てきて、好きなだけそのトマトを食べるという半分セルフサービスのような朝食だったが、今朝は炊きたてのご飯に味噌汁と塩鮭、和え物に温泉卵に漬物まで。
母が温泉卵を作れるなんて知らなかった、と思ったら市販の温泉卵のパックが捨ててあるのを発見した。
「ありがとうございます、いただきます」
やばい。
育ちの良さが滲み出ている。
橘家では緊張しすぎて見ていなかったが、箸の使い方がものすごく綺麗だ。
きっと一流の料亭なんかでも迷うことなく完璧なマナーを自然にやってのけるに違いない。
俺、もしかして大変なところに嫁ぐんじゃないだろうか。
優弥は朝から少しヒヤリとした。
「ほんとにごめん…お父さんってば…」
「別に気にしてないですって」
龍樹は楽しそうにくつくつと笑った。
早食いの父は皆よりも随分早く食べ終わり、爪楊枝で口の中を掃除して…その最中、それは盛大なげっぷをした。
その時の龍樹の驚きようったらない。
家族全員から罵倒された父は完全にヘソを曲げてしまい、母と愛弓と一緒に平謝りだ。
優弥はちらりと隣の龍樹を見た。
実家に土産を頼まれたという彼は、あまり見せない歳相応の楽しそうな表情をしている。
その横顔をホッとしながら眺めて、落合は一つのお菓子を指差した。
「これとか有名だよ、俺はあんまり好きじゃないけど」
「好きじゃないもん人に勧めますか」
「うっ…」
「先生は何が好きなんですか?」
「えっ?」
優弥は思わず聞き返した。
龍樹がこんな風に優弥の好みを聞いてくれたのは、初めてのことだった。もちろんそれは今までそう言う機会がなかっただけなのだけど。
「あ、俺は…これとか昔から好きで食べてたかな」
「じゃあそれにします」
龍樹はそのお菓子を2箱取り、さっさとレジに向かって歩き出した。
俺のこと知りたいって思ってくれたのかな。なんて。むふふ。と少しニマニマしながら通行人の邪魔にならないように移動しようとして、人に衝突した。
「あ、すいませ…」
会いたくないと願うから、出会うのか。衝突したのは翔太郎だった。
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