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第102話
翔太郎も驚いたようだった。
帰省中の優弥はともかく、未だこの辺りに住んでいる翔太郎がなぜこんな観光客向けの土産屋にいるのか。
と、思ったら従業員のユニフォームを着ている。
ポップなキャラクターが描かれたカラフルなエプロンが妙に似合っていた。
「…なに、職場に土産?」
「あ、あー…そっか買って行こうかな…いや龍樹くんがね」
「ああ、番の?お前マジで番作ったんだな」
翔太郎は、ハッと鼻で笑った。
その嫌な笑い方に、自然と眉を顰めてしまう。
ああいやだな、龍樹くん早く戻ってこないかな。帰りたい。
「どこの誰だか知らねーけどさ、まだ10代だろあいつ…番になったってことはお前そのうなじ見せたんだ?すげぇ物好きだよな、根性焼きついてるうなじに噛み付くなんて、あのガキ相当ド変態…」
「この人のうなじにこれつけたの、あんた?」
段々とヒートアップしていた翔太郎の言葉を遮ったのは、他でもない龍樹だった。
聞かれていたとは思わなかったのか、翔太郎が一瞬で小さくなる。その様子を見て、龍樹は大げさに溜息をついた。
「…俺じゃ、ない」
さっきの勢いはどこへ行ったのか、翔太郎がボソッと呟く。
まるで叱られた子どものようだ。
「…行きましょう先生」
「あ、うん…」
厳しい声に、思わず優弥も萎縮してしまった。
そうだ、龍樹くんもともとこういう声だった。
最近はすっかり角が取れて、痛い所はついても攻撃的な物言いをすることがなかったから、忘れていた。
強く握られた腕が痛かった。
「優弥!」
後ろから呼び止められて、龍樹と2人立ち止まる。
振り返ると、翔太郎は泣きそうな顔をしていた。
「…結婚すんのか、お前」
「今里ぉ!ちょお、こっち手伝え!」
優弥が答える前に、上司であろう年配の男性が翔太郎を連れて行ってしまった。
癒えたはずのうなじの火傷がじくじく痛む。違う、痛むのはきっと、火傷じゃなくて、心だ。
すっかり意気消沈して俯いてしまった優弥を、龍樹がじっと見ていた。
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