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第103話

「無理に聞き出すつもりはないんですけど」 落合家に戻ってきた龍樹が、不機嫌さを隠さずにそう言った。 「あの人なんなんですか?すげぇ胸糞悪い」 龍樹がここまでイライラしているのは初めて見たかもしれない。 控えめに言って、とても怖い。 優弥は背中に嫌な汗をかきながら、龍樹の目を見ることもできずにいた。 けれどその態度が余計龍樹の苛立ちを助長させる。 「…まただんまりですか」 龍樹はそう言うと、麦茶を飲み干して部屋を出て行ってしまった。とはいってもここは優弥の実家だし、精々トイレか何かだろう。 わかっているのに、酷く苦しい。 「翔太郎とは…」 優弥はポツリと呟く。 言いたいわけじゃないけど、言えないことでもない。ただ、自分自身、今の翔太郎との関係性を説明できないのだ。 鼻の奥がつんとして、慌てて残りの麦茶を飲み干したら、盛大にむせた。 散々だ。 「あれ、龍樹くんは?」 「愛弓が連れてったわよ」 「なんで!」 「さぁ?にしても龍樹さん18なのよね?愛弓と一つしか違わないのに、あんなにしっかりして…いいお家のご長男?」 「いや、いいお家の次男…」 「良い家の次男坊だと!?ろくでもねぇな!」 「お父さん、考え方が昭和通り越して大正」 どうせ次男坊は自由奔放で好き勝手やるからうんぬんと言い出すんだろう。 龍樹は次男だが双子だし、むしろ長男の水樹の方が奔放な性格をしている。 「…龍樹くん、苦労してるからね」 Ωの兄をずっと守って来たのだ。 ついこの前の夏祭りで、固く握り合ったその手が漸く離れたような。 気苦労は凄まじかっただろう。 それでも、水樹が大切だからやってこれたのだろうが。 ふと、最初にこの家に来る道中を思い出した。車の中で、水樹が変わった、いや戻ったと話す龍樹の寂しそうな表情を。 寂しいだろう。 あれだけべったりだった兄弟が、いきなり離れたら。 「…お母さん、龍樹くんと愛弓、どこいったかわかる?」 深い心の中、水樹がいた部分だけがぽっかり空いているその部分も、自分が埋めてあげたい。 苛立ちなんかではなく、温かい感情で。

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