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第105話
パキッ!
何かを踏みつける音が響いて、優弥はしまった!とその場にしゃがみこんだが時すでに遅し。
物音に気付いて振り返った2人と、バッチリ目が合ってしまった。
「…こ、こんばんは」
「お兄ちゃん…立ち聞き…?」
「や、その、そんなつもりは」
「先生、立ち聞きですよね」
「………はい…」
俺の心配をする話をしていたのに、なんで聞かれてこんなに怒られてるんだろう。優弥は少し混乱して、そもそも立ち聞きしていたことがよくないのかと思い当たるまでに随分とかかってしまった。
「…まぁ、いいや。お兄ちゃんも気をつけてね。あの変態懲りてないよ」
「翔太郎は、ストーカーなんかじゃ」
「あれは立派なストーカーだよ!気持ち悪い!」
当時を思い出したのか、愛弓が嫌悪にまみれた顔で吐き捨てた。
愛弓はこの件に関しては頑固だ。実被害を受けたのは優弥1人だが、頑なに翔太郎を警察に突き出そうとしたのも愛弓で、それを両親に知られたくないと言って宥めるのは本当に骨が折れた。
「…とりあえず、戻りませんか。迎えにきてくれたんでしょう」
冷たく厳しい声でそう言った龍樹の表情から、何も読み取ることができなくて。
龍樹を怖いと思ったのは、初めてかもしれない。
優弥は真夏だというのに少し身震いした。
「愛弓さんの話を聞く限りじゃ、立派なストーカー行為ですよ」
帰りの車中で、過去の翔太郎の行いを洗いざらい暴露した愛弓は、お兄ちゃんボーッとしてるからよろしくお願いします龍樹さん!と固く手を握って風呂場へ消えた。
消えるな、この静かに怒る人を俺と2人にして消えてくれるなと強く願ったがもちろんその願いが叶うはずもなかった。
「…でも、翔太郎は俺を心配して」
「心配。なるほどいい大義名分ですねそれは」
ふっと龍樹は鼻で笑った。
嫌な笑い方だ。まるで出会ってすぐの頃のような、尖った感じ。
優弥は胸の前でぎゅっと拳を握った。
「ストーカー行為に発展するような何かがあんた達にあったんでしょうけど、だからって許していいものじゃない。なんでそんなに庇うんです?」
ビシッとそう言い放たれて、優弥は血の気が引いた。
龍樹がここまで言うなんて。けれど言わせたのは自分。涙が出そうだったが、泣いたらきっと余計怒らせる。
ぎゅーっと胸が痛くなって、どうしよう、と思っていたら、龍樹が大きく溜息を吐いて。
それを聞いて、今度はふっと胸の痛みが消えた。
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