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第108話
善は急げ。
バタバタと階段を駆け下りて、なんだか和やかな雰囲気の居間の戸を開け放ち、優弥は叫んだ。
「龍樹くん!今から飲みに行こう!」
「馬鹿じゃないのあんた!龍樹さん未成年でしょ!」
「そうでした!!」
ガンッ!と優弥の頭に大きな石が降ってきた。気がした。
大学生の間にすっかり話し合いと酒がイコールになってしまっていて、酒も入れずにどうやって腹割って話せばいいんだと悩んでしまう。
汚い大人になった気がした。
「あうあう、じゃあ、えっと」
「…お茶でよければ、付き合います」
今まで飲んでいたんだろう麦茶の入ったグラスを持って立ち上がった龍樹は、もう先ほどのようなピリピリした雰囲気はない。
優弥は少しホッとしながら、やはりここは酒の力を借りてはいけないと自分も麦茶を用意して。
二人で優弥の自室に行く途中、風呂から出てきた愛弓が、グッと拳を握ってきた。
兄ちゃん頑張るよ、と拳を握り返す。
わかりあえないわけがない。
何と言っても俺たちは運命で結ばれた番。こんなことで引き離せるちっぽけな関係ではないのだ。
「えっと…あのね」
「すいませんでした、さっき。」
「うん…え?あれ?」
「ただの嫉妬です…俺は昔のあんたを少しも知らないから…」
「うん、まって、おかしいこんなはずじゃ」
俺が先に謝って将来の主導権をうんぬん。ごめんなさい水樹くん、失敗しました。
せっかくのアドバイスが無駄になったことを心の中で詫びると、朗らかに笑う水樹が見えた気がした。
「あと、先生の連絡先、水樹に教えました。すいません勝手に…」
「あ、それは、俺も知りたかったから…全然平気だよ。」
胸の前で両手を振ると、龍樹は少しホッとしたようだった。
和やかな空気が二人を包み、優弥も気持ちが凪いでいく。怒ったり泣いたり喜んだり落ち着いたり、忙しい胸中がなぜか心地いい。
「…俺あんまり話上手じゃないから、うまく伝えられないかもしれないけど。聞いてくれるかな。」
知らないなら知ればいい。
それで幻滅されても、自分は変わらずずっと龍樹が好きだから。
夏の短い夜が長く感じそうで、優弥は麦茶を一口飲んで喉を潤し、話し始めた。
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