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第109話
今里 翔太郎との出会いは小学生の時。
当時から鈍臭かった優弥少年は、クラスメイトが悪戯でランドセルのロックを外していたことに気付かないままほどけた靴紐を直そうとして、盛大に中身をぶちまけた。
その時に、気に入っていた新しいペンケースが犬の糞にダイブして。
優弥少年はその場に立ち尽くしたのだった。
その悪戯の主犯が、翔太郎だった。
「…俺さ、その時声も出さずにボロボロ泣いてて…そしたら翔太郎、突然走ってきて土下座したんだよね。ごめん、同じの買ってくるからどこで買ったか教えてって」
懐かしい思い出を語りながら、優弥は夏の夜風に髪を揺らした。
そしてその翌日、翔太郎は本当に同じペンケースを買って持ってきた。数本の鉛筆と消しゴムも一緒に。
「人を泣かせる悪戯はイジメだからやっちゃダメなんだ…って」
大人になり、そして教師になった今でも、優弥が心に刻んでいる言葉の一つだ。
「それからかな。ずーっと仲良くしてて…10歳の性検査で俺がΩだってわかっても普通に接してくれててさ。それどころか、レアじゃんすげー!って。ふふ、子どもだよねぇ…」
当時の翔太郎はクラスの中心だったから、翔太郎が優弥を無碍にしなかったおかげで優弥はクラスで爪弾きにされることなく楽しい小学校時代を過ごした。
同じ中学に進学して、田舎だから小学校と面子も大して変わらなくて。
「中3の時初めて発情期になったけど、それを助けてくれたのも翔太郎だった。保健室までおんぶで運んでくれて、特効薬の副作用で動けなくなったら家まで送ってくれた。懐かしいなぁ、翔太郎の背中に思いっきり吐いて怒られた。」
もはや笑い話だ。
特効薬の副作用が重いのは周知の事実だし、嘔吐も全く不思議じゃないのだけど。やっぱり気持ちのいいものではない。
ふざけんなおめー!吐くなら言えよ!
と叫んだ翔太郎に泣きながら謝ったのだった。そういえば、あの制服、どうしたんだろう。捨てたのだろうか。
「…翔太郎が段々おかしくなったのは、高校に入って…いつだろう、わかんない。今思えば最初は高1の…ゴールデンウィーク明け。」
今思えば、なぜ気付けなかったのかと思う。明らかにおかしかったのに。
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