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第110話

『俺、部活辞めた。』 きっかけはそれだった。 小学校の時からサッカー一筋で、高校でもサッカー部以外微塵も興味を示さなかった翔太郎が、入学早々部活を辞めるなんて。 『なぁ、明日から朝一緒に行こうぜ。どうせ近所だし。』 『部活ないと帰りも一緒だな。』 すると登下校が一緒になる。それは自然な流れだったと思う。 それが次第にエスカレートして、いつしかべったりになって、何故かいろんなことを把握されてて。 優弥、トイレ行こうぜ。 優弥、次体育。ほらお前の着替え。 優弥、ハンカチは?ねぇの? 優弥、シャーペン無くしたろ。 優弥、それ俺が捨てとくよ。 優弥、なぁ優弥。 「…高2の夏休みが終わる直前、翔太郎が突然大荷物を抱えて家に来て…一緒に学校辞めよう、逃げようって言い出して。訳わかんなくて家に上がってもらおうとしたんだけど、そのまま走ってどっか行っちゃって…その時ね、」 その時の事を、今でも鮮明に覚えている。 走り去った翔太郎が置いていった大荷物のポケットから覗く数枚の写真。 それは優弥の隠し撮りだった。 あまりの驚きにその鞄を開けると、数点の服、食糧、母親名義のクレジットカード。 他は優弥の行動範囲や生活スケジュールをメモしたノートに、優弥の一日を記録したノート。そして優弥が失くしたと思っていた私物だった。 「親は働いてたから知らないんだけど、愛弓がそれ見ちゃってね…まだ小学生だったし、ものすごい衝撃だったと思う。」 小さい時からよく会っていた兄の友達が、まさか兄をストーキングしているなんて。 よく懐いていたのに、その日を境に愛弓は翔太郎を目の敵にするようになった。 「愛弓がすぐ警察に行こうとしたんだけど、俺が止めたんだ。だって、まさか翔太郎がストーカーなんてするとは思わなくて、俺、翔太郎から話聞きたくて…聞いてからでもいいだろって。」 そう、だから翌日。 その荷物を届けに行くのと同時に、話を聞こうと思って。 念のためボイスレコーダーを忍ばせて、翔太郎の家に行った。 出迎えたのは、目の下に隈を作り、やつれて憔悴しきった翔太郎だった。 翔太郎のあまりの変貌に驚愕したのも束の間。翔太郎はゆらりと家から出てきて、優弥の細い肩を掴んでこう言った。 『俺たち、友達だよな?』 と。

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