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第111話
声もなく頷いた優弥に、翔太郎はうっそりと微笑んで、そして手を引いて学校の方へと優弥を連れ出したのだった。
「そうだよ、優弥は俺の友達なんだから、優弥に助けて貰えばいいんだって、うわ言みたいに…凄い力で、振り払えなくて…」
そうして辿り着いた先は、学校のグラウンドの隅にある体育倉庫。
の、裏。
そこにいたのは、優弥は全く面識のない、サッカー部のユニフォームに身を包んだ生徒たちだった。
その先を告げるのは、物凄く勇気が必要で。
ぎゅっと両腕を抱き締めて、深く息を吸うと、思ったよりもそれは困難だった。吐いた息は震えていた。
瞼を閉じればあの時の光景がすぐに思い浮かぶ。背筋が凍ったあの瞬間を思い出す。
と、記憶に怯えて凍りそうになった背中に、温かいものが触れた。
龍樹の手だった。
「…無理に話さなくていいですよ。」
優しい声。
低くもなく高くもなく、静かで穏やかな大好きなその声にうっとりと浸ると、それだけで気持ちが落ち着いた気がする。
もう一度深呼吸すると、今度は震えていない。
「大丈夫。…手を、握ってても…いい、ですか…?」
なんで敬語だよ俺、と自ら突っ込みたくなったけれど。龍樹はそれを笑うことなく、優弥が望んだ通り指を絡めてそっと握ってくれた。
まるで指先から勇気が流れて来るようだった。
「翔太郎ね、その先輩たちに…所謂、イジメを受けていたんだ。」
そしてそのきっかけが、優弥だった。
「お前の友達のΩ、連れてこいよって…言われてたんだって。断ったら、じゃあお前が代わりになれよって…」
殴る蹴る、お金を奪る。
あれを盗んでこい。
写真を撮ってこい。
できなきゃお前の友達のΩがどうなるかわかるよな。
先輩たちは、面白がっていただけなのだと思う。
田舎町には珍しいΩで遊びたかったのだろう。馬鹿正直に誰にも相談せずに友達の身代わりになる後輩を嘲笑いたかったのだろう。
優弥の身を案じるあまり優弥の行動を把握していないと不安でたまらなかったのだと理解するのに時間はかからなかった。
そんな犯罪行為をさせられて、知れたら自分もただじゃ済まなくなってしまっていた。
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