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第112話

「その先輩達、俺の顔見て、ついにお友達裏切ったのか翔太郎、お前すげー頑張ったな…って、大笑いしてた。」 先輩たちにバシバシ肩を叩かれながら、覇気のない不気味な笑顔で、翔太郎は優弥に叫んだ。 「お前みたいな薄汚いΩ、友達なんかじゃねーよ。翔太郎との最後の会話が、これ。」 その後は、惨状だった。 「翔太郎も俺も、もうね、サンドバッグ。まぁ、言ってもそんな大怪我しなかったけど…この火傷は、その時先輩達につけられた。」 俺たちの専用おもちゃの印。 そう言ってうなじに押し付けられた煙草の熱さは、今でも煙草を見るだけで思い出す。 結局、優弥が持っていたボイスレコーダーが証拠となってその先輩達は退学になり警察に送られたから、その後も優弥たちが暴行を受けることはなかったのだけど。 優弥は、翔太郎にストーキングされていた事実を、警察にも家族にも話さなかった。 翔太郎が自分を守るためにしていたことだと知ったから。それが正しいやり方ではなかったのはわかっていたけれど、翔太郎はすでに十分すぎるほど傷付いた。 友達なんかじゃない。 そう言わせてしまったのは、自分だ。クラスの中心にいた翔太郎がこんな風になってしまったのは、自分がもっと早く翔太郎からのSOSに気付けなかったから。 友達なら、気付いてあげなきゃいけなかったのに。 その出来事の後、翔太郎は優弥を置いて消えた。学校は辞めてしまったようだった。 優弥は地元を離れて都内の大学に進学し、そして今教師をしている。 この前、診療所の前で再会するまで、音信不通だった。 「…相談、して欲しかった。」 1人で抱えずに、相談して欲しかった。なにも相談してくれなかったことこそが、優弥には裏切りに感じた。 喉の奥から迫り上がる熱いものを、やっとの思いで飲み込むと、今度はツンと鼻の奥が痛くなった。 強く握りしめた龍樹の手に、爪が食い込んでいる。痛いだろう。けれど手の使い方を忘れてしまったかのように力が抜けなかった。 「…だから教師になったんだ。」 誰にも相談できずに苦しむ人が、1人でも少なくなれば。 イジメ根絶なんて大層なことは掲げられないけれど、ほんの少しでも貢献できたら。 Ωの身で教師になるのは楽ではなかったけれど、目標があったから苦ではなかった。

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