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第114話

「あの、さ。」 声は震えていないだろうか。 優弥は努めて平静を装ったが、うまくいったかは全くわからない。あんなにもゆったりしていたのが嘘のように、緊張で身体が固くなっていた。 それを龍樹も感じ取ったのか、空気が変わる。それがまた、緊張のタネになる。 「…運命を、知りたくなかったって…どういう意味?」 言った。 言ったぞ俺、頑張った。 まだ答えを聞いてもいないのに妙な達成感に襲われて、優弥はひっそり拳を握った。本当はその拳を突き上げたい気分だ。 龍樹は暫く考え込んで、ああ、と。 「運命を知ってしまったら…叔父が水樹を襲ったときの、運命なんだっていう言葉に嘘がなかったことを知ってしまうから、ですかね。うまく言えないけど…」 龍樹はまた、言葉を探すように考え込んでしまったけれど、優弥はもうこの言葉だけで充分だった。 口数の多い人ではなく、言い回しも上手くはない。たくさん本を読んでいて語彙はあるのに。いやだからこそうまく紡げないのかも。 運命という名の免罪符が存在しては困る。多分、そういうことだ。 優弥との関係も出会いも一切関係ない。ただ優弥が深く考えすぎただけ。 よかった。 優弥はまたこてんと龍樹の肩に頭を預けた。 「龍樹くん、好き。」 「は?」 「え、ひどい。」 「あ、いや…突然どうしました?」 「んーん、なんでもない。」 龍樹から好きとかそういう言葉は、返って来ない。別に構わない。ちゃんと伝わってくるから。 耳どころか首まで赤くなってるその顔を見上げれば一目瞭然。きっと見られたくないだろうから、一瞬だけ盗み見て、目を閉じた。 目を閉じると、より龍樹の鼓動が伝わってくる気がする。フェロモンに包まれる気がする。 甘くてちょっと刺激的な、まるで麻薬みたいに離れられないフェロモン。 「結構いい時間ですね。もう。」 龍樹はするりと離れて、床に敷かれた布団に優弥に背を向けて横になった。 横向きだから、布団の端が空いている。 「え、…え!?」 昨日は、断られたのに。 今日は入っていいの?この流れで一緒の布団に入るって、でも俺トイレも行ったし汗も少しかいたし。 「俺、シャワー浴びてくるね!」 「は?今からですか?」 「やっぱ、綺麗じゃないとね!」 「はぁ、まぁそうですね。」 「待ってて!」 愛弓に白い目で見られながら風呂場に入り、念入りにありとあらゆるところを洗ったけれど。 戻ってきたら龍樹は熟睡していた。 寝顔可愛いと思いつつちょっと切なくなりながら、自分の布団に潜り込むのだった。 次に翔太郎に会ったら、伝えよう。 気付いてあげられなくてごめん。 それから、守ってくれてありがとう。 時間はかかっても、いつかまた友人と呼べる関係に戻れる日が来ますように。

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