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第116話
悶々。
辛く当たられたこともあるけれど、水樹には幸せになって欲しい。そしてその鍵は、水無瀬が握っているはずなのだ。
考えたところでどうにもならない。
結局は本人たち次第なのだから、外野も外野な優弥にはどうすることも出来やしない。
それでも悶々と考えてしまうのはもはや性分だろう。
「優弥ー!翔太郎くん来てくれてるわよ!随分久しぶりじゃないの?お母さんったらこんな格好なのに玄関で長話しちゃったわぁ。」
母の爆弾が投下されるまで、その考え事は続いた。愛弓の顔が一瞬で般若と化したのを、優弥だけが見てしまった。
「ごめんね、俺もこんな格好で。」
「いや…時間も時間だし。悪いとは思ったんだけど、出かけちゃったら会えねーと思って。」
暴れ狂う愛弓を龍樹と父の二人掛かりで抑え込み、漸く優弥の自室で落ち着いた。
翔太郎は何を思っているのか、居心地悪そうに辺りをキョロキョロしている。
「で、どうしたのこんな朝早くから。」
「いやその、…お前、さ。今何処に住んでんだ?」
「え?どこって…」
優弥は躊躇した。
翔太郎に悪気がなかったとはいえ、彼のしたことがストーカーであることはもちろん優弥もわかっていた。
その翔太郎に今の住居を教えるのは、流石の優弥も気が引けてしまう。
優弥の躊躇いを感じ取ったのか、翔太郎は苦い顔をした。
「…やっぱ言えねーか、俺には。」
「その、ごめん。」
「いや…あのさ、昨日聞きそびれたんだけど、お前結婚すんのか?」
昨日の土産物屋では、翔太郎が上司に呼ばれて答えられないままになっていたことだ。
結婚。
そうだ、鎌倉に行ったのも龍樹がわざわざここまできてくれているのも、最終的には結婚に向かっているのだ。
他人から言われて初めて強く実感して、優弥は少し赤くなりながら小さく頷いた。
翔太郎は、苦い表情を更に深くした。
「…相手、あのガキだろ?さっき下でおばさんに聞いた。お前正気か?」
今度は優弥が苦い顔をする番だった。
口を開く前に、着替えた母が麦茶を持ってくる。母は何も知らない。翔太郎と優弥の間に何かがあったことすら知らない。
母の中では今でも『息子の1番の友達の翔くん』だろう。
「優弥あんた、龍樹さん駅まで送っていかなくていいの?電車は?」
「あ、そうだ…龍樹くん、下にいるよね?」
「うん。」
「ごめん翔太郎、少し待っててくれる?」
母が持ってきた麦茶を一口飲んだ翔太郎は、険しい顔でこういった。
「つーか、そのタツキとやらと話してぇんだけど。」
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