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第117話
一触即発。
龍樹と翔太郎の間に火花が散っているのが見えて、優弥は小さな身体を更に小さくして、気付かれないように溜息をついた。
そもそも、翔太郎はなんで龍樹と話なんか。
悲惨な事件から音信不通で、再会したと思ったらこれだ。
再会した幼馴染が結婚していたとか子どもがいたとか、別に珍しい話ではないだろう。ただ優弥たちの年齢ではまだ早いのは確かだけど、それでも不自然ではないはずだ。実際嘘でもなんでもない。
話がしたいと言った割に、翔太郎は一向に口を開かない。龍樹もどうしていいかわからないようだった。
「…あの、お話ってなんですか?」
そうして先に痺れを切らしたのは龍樹の方。
優弥はこの声をよく知っている。出会ったばかりの頃、龍樹を苛立たせてばかりだったあの頃は、ずっとこんな声を聞いていた。
こんな硬くて厳しい声で毎回話しかけられてたのに、よく俺めげなかったな。
心の底からそう思う。
すると翔太郎がゆっくりと口を開いた。
「お前、本当に優弥を愛してんのか?」
翔太郎の声も、硬く厳しいものだった。
「発情期に無理矢理襲って番にしたんじゃねぇのか。」
それを聞いた瞬間、龍樹の周りの温度が下がった。
番になったあの時。
合意だったかと言われれば、素直に頷くことは出来ない。
運命が引きずり出した優弥の発情期に煽られた龍樹が、有無を言わさず噛み付いてきたのがあの時の実態だ。
優弥は確かに龍樹に噛まれることを望んでいたけれど、それでもやはり教師と生徒というのは気になったし、段階も何もなかった。
「…優弥、教師してんだろ。お前もお前だよ。正気か?生徒と番になって結婚するとか…」
ははっと乾いた笑いをこぼす翔太郎の顔に浮かぶのは、嘲笑。翔太郎のこんな笑い方、知らない。
優弥はグッと唇を噛んだ。
「おじさんもおばさんも愛弓もどうかしてる、学校側が黙ってるのだって、問題になって世間を騒がせたら困るからだろ?運命の番?そんな都市伝説、誰が信じるんだよ!どうせお前が襲ったんだろ!?」
「違う!!」
大声をあげたのは、優弥だった。
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