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エピローグ1

「えっ!じゃあ、卒業したらすぐ?」 「うん、その予定。」 「そっか…おめでとう。」 「ありがと。」 へへ、と水樹はちょっと照れ臭そうに笑った。 一足早く推薦で進学先を決めた水樹は随分前からお気楽な学校生活をしているようだった。 こうして優弥の元を訪れたり、引退した陸上部に顔を出したり。制服のままトラックを走る姿も何度か見た。走り終えた水樹にタオルを渡す水無瀬の姿も。 水樹も随分スッキリした顔をするようになったが、それ以上に水無瀬の変貌が凄まじかった。 柔和な笑顔に全ての感情を隠してしまっていたのが嘘のように屈託無く笑っている。 作り物のような美しい顔に、随分と人間味が増した。 「…養子縁組でもよかったんだけどね。もう18だし、いつか結婚するなら手続き面倒だからさ。俺も唯もそのへん拘らないしね。」 水樹が水無瀬のことを違和感なく下の名前で呼ぶようになったのも最近のことだ。 呼びなれないのか照れくさいのか、少し前までは言い直したりしていて、それがまるで付き合いたてのカップルのようで可愛らしかったのをよく覚えている。 そんな2人が、卒業と同時に入籍するという。 水無瀬が橘家に婿入りする形で。 「いいなぁ〜…」 「なんでよ、そっちだってそうじゃないの?」 「それがさぁ…」 一方龍樹と優弥は、入籍は先延ばしとなった。 『あと4年…いや5、6年待ってください。ちゃんと働いて指輪買うんで。』 そう言って微笑んだ龍樹はとてもカッコよかったけど。 入籍して『橘 優弥』になることを心待ちにしていた優弥は拍子抜けしてしまったのだった。 指輪なんて、俺が買うのに。 あ、でも新米教師の安月給じゃ大した物は買えない。 「来年度は橘先生って呼ばれる予定だったのに〜〜〜!」 悲しいやら嬉しいやら、そして目の前の水樹が羨ましいやら。 机に突っ伏して嘆く優弥に、水樹は苦笑いしながらまぁまぁと肩を叩いてくれた。 「あいつらしいっちゃらしいけどね。馬鹿正直でさ。ほんと本読み過ぎで頭カチカチ。」 「龍樹くんが意外とロマンチストだった…」 「いいじゃん羨ましいよ?俺なんてきっと指輪も式も新婚旅行も一生ないよ?」 「それは…悲しいかも…」 「ほら、よかったじゃん!龍樹が純で無垢で優しい天使で!どっかの唯みたいな見掛け倒しと大違い!」 「うん、水樹くんもかなりブラコンだよね。知ってた。」 ちょっと白い目をしてしまったのは許してほしい。すると視線を逸らした水樹がちらりと腕時計をみる。 そろそろ、時間だ。

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