121 / 131

エピローグ2

今日は、龍樹の第一志望の大学の合格発表の日。 本をたくさん読んでいるから、てっきり文学部とかそっち系に行くのだと思っていたら、まさかの理系だったことを知ったのは実は10月に入ってから。 文系大学を卒業した身として過去問やら何やらを提供しようとした時のこと。 「あ、俺薬学部志望なんで。」 理数系がからっきしの優弥にはさっぱりわからない数式が並んだ参考書を積み上げて、バッサリ切り捨てられたのだった。 後で水樹に聞いたのだが、ヒート抑制剤の研究をしたいらしい。 ちらちら携帯を見ているが、まだ連絡は来ない。 「…水無瀬くん…もう、唯くんの方がいいのかな?最近どうしてるの?」 「さぁ…無事6年間学年首位を守って気が抜けたみたいで、のんびりしてるよ。」 「それはまた随分余裕で…」 「まぁ、唯だしね…」 金銭的な事情で進学を諦めていたらしい水無瀬は、卒業したら水樹と結婚し、義父となる庸を保証人に奨学金を借りて大学に行くことにしたようだった。 本当の両親はどうしたのか、どういう経緯でそうなったのかは、優弥は知らない。 知りたくないと言えば嘘になるが、それを探るのはあまりに野次馬根性丸出しで意地汚い気がして、聞き出せずにいる。きっと水無瀬も水樹も聞けば答えてくれるのだろうけど。 夏休み前に水無瀬に何かが起きて、それが引き金になって水樹との将来が危ぶまれたのだけは確かだが、それ以上はさっぱりわからなかった。 それも収まるところに収まったようで、2人の明るい顔を見てホッとしたのは夏休み明けのことだ。 『龍樹がちゃんと俺より大事な人見つけたからさ。もう俺が一緒にいなくても、大丈夫そうだから。』 全部先生のおかげ。 ちょっと茶化してそう言った水樹の笑顔を、きっと優弥は一生忘れないだろう。 その後水無瀬本人と話す機会もあったけれど、飄々とした態度は相変わらずで、仲良くなればなるほど優弥は掌で転がされて大笑いされるだけだった。 やっぱり、苦手だと思うのだった。 「あ、来た。」 「えっ!?」 水樹のスマホがメッセージを受信して、その画面には龍樹のふた文字。 優弥も慌てて携帯を開いた。

ともだちにシェアしよう!