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エピローグ3

が、何も来ていない。 「水樹くんが一番最初なんだね、龍樹くん…!」 切ない。 やっぱり龍樹の中では未だに水樹が不動の一位を守っているのを目の当たりにして、がっくりと打ちのめされる優弥に、水樹は苦笑いするしかなかった。 涙目になりながら携帯を開く。 一抹の望みをかけて、受信欄を更新してみたりしたけど、何もない。 はぁ、と溜息を吐いて、違う可能性を考える。 もしかして、ダメだったから連絡しづらい? 龍樹が受験したのは国内でも指折りの名門大学だ。いくら龍樹がαで優秀でも、敵も優秀なαばかりに違いない。ダメでも全くおかしくない。 結果だけでも水樹に聞いてもいいかな、とドキドキしながら携帯を握りしめると、それが突然震えた。 長く震えるそれはメッセージではなく、着信だった。 発信元は言わずもがな龍樹。 緊張で指先の感覚がなくなっていたけれど、なんとか通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。 「も、もしも、もしっ!?」 舌、噛んだ。 今度は痛くて涙目になりながら、祈るような思いでギュッと携帯を握りしめる。 受かったらお祝いに何か贈ろう。 ダメだったら、なにか美味しいものでも食べに連れて行ってあげよう。 大丈夫あんな名門大学ダメでも全然恥ずかしくないよ、合格圏内だったことがすごいんだよ、俺なんて考えもしなかった名門だよ、ああどの励ましが一番いいだろう。あれ、落ちたの前提に考えてる?いやいや、そんな。 『…動揺しすぎ。』 電話越しにふふっと笑われて、まるで耳元で小さく笑われたみたいでくすぐったくなった。 声の調子は、明るい。よかった。 『今、平気でした?』 「へっ、へいき!全然!」 『良かった。』 静かで穏やかで心洗われるような高過ぎず低過ぎない声は、電話越しだと少しくぐもって察しにくい。 特に龍樹は言葉少なく視線で語るから、顔が見えないと全く読めない。 携帯を握りしめた両手が、微かに震えていた。 『受かってました。…直接伝えたくて。』 優弥の顔が一気に緩まり、ぶわあっと大粒の涙が溢れたのを目撃してしまった水樹は、思いっきり眉間にしわを寄せて溜息をつくのだった。

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