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7-4※

 俺は、またしても鉄生に対して申し訳の無い気持ちにさせられた。でもそれは、もうこれで今回のチャレンジは終了だと思っていたからで……。 「ま、いっか。良い感じに力も抜けたみてーだし。じゃあまず、一本から行くぜ」 「……はい?」  思わず聞き返したのと同時に、下半身にずん、と鋭い衝撃が走った。 「おー、これくらいだったら余裕でいけるもんだな」  呑気にそう言って、鉄生が笑う。……他人事だと思いやがって。  一方俺は、絶頂の直後に与えられた痛みとも快感ともつかない感覚を脳で処理しきれず、息もできずにひゅうひゅうと喉を鳴らすだけだった。  鉄生に言いたいことはたくさんあった。あのさ、徐々に慣らす、って言ったじゃん。一気にやる奴があるかよ。それじゃ意味無いよ。あと思いのほか鉄生の指ゴツすぎ。なのに何で最初に使う指、中指をチョイスするかな……!?  俺の気持ちを知ってか知らずか(多分知らない)、鉄生は俺に挿入した指を大雑把な動作でぐりぐりとかき回し続ける。  痛い。気持ちいい。痛い。目まぐるしく形を変える感覚は徐々に体の中心から外側に向かって広がってゆき、しまいには全身をびりびりと痺れさせた。 「……あれ? 気持ちいーんだ? 洋介」  素っ気ない口調で言って俺を見下ろした鉄生の視線は、気のせいか少し冷めた色をしていた。  この快感とも苦痛とも言い難い感覚をどう伝えたものか、いや、それ以前に今はとてもじゃないけど喋れねぇよ、などと思っていた俺は、 「オレ、けっこーワザとやってんのになぁ」  その言葉で、鉄生の真意をようやく理解する。これはある意味、奴の腹いせなのだろう。  ――そっかぁ……。そりゃあ怒るよな、鉄生も。俺が言うのもなんだけど、これってつまり“前に告白した相手が深刻な相談を持ち掛けてきたかと思ったら、セフレにならないかと提案された”みたいな感じだもんな。  ……とは思えど、もはや譫言レベルでしか声の出なくなっている俺は、鉄生にゴメンの一言を言うことも不可能なのであった。 「なあ洋介、もう指二本入ってるの分かってる?」 「え、あ、それ」  ――分からない。全然分からない。 「てゆーかコレ、もう慣れてんじゃねーの? スゲーとろとろなんだけど」  ――……分からない。分かるはずがない。 「念を入れるなら指三本入るまで、とか書いてあったけど、別に省略してもいいよな? きっと」  弱弱しく頭を振ることにより、かろうじて意思表示を試みる俺を無視して、鉄生はサディスティックな口調で話し続ける。  そして、ついに俺は彼から一方的な通告を受け取ることとなった。 「じゃあ、一回試しに挿れてみるか。痛かったら言えよ? 止めれそうだったら止めるから」  一見こちらを気遣う風な台詞ではあるが、俺がまともに喋ることのできない状態である以上、鉄生を押しとどめる手段は無いも同然だ。  ふっと体に感じる圧迫感が緩み、少しだけ呼吸が楽になる。どうやら俺の“そこ”から鉄生の指が抜き取られたようだった。  と、おもむろに両脚を大きく割り開かれ、腰を抱えあげられる。過去、さんざんお世話になってきたエログラビアのような格好を自分自身がしていると思うと、感慨深いやら恥ずかしいやらでもう大変だ。  俺の感覚は既に相当に危うい状態に陥っていたが、自分の骨盤に狙いを定める凶悪な気配は何故かありありと感じられた。  ――あ、来る。  先ほどまでとは比べ物にならない、体が内側から押しつぶされそうな程の圧迫感に、俺は息を呑んだ。 「く、うっ……」  食いしばった歯の間から苦しげな声を漏らしつつ、鉄生はゆっくりと、且つ強引に腰を進める。  幸いなことに、芯まで痺れ切った体は全くといって良いほど痛みを感じなかった。それでも、楔を打ち込まれるような重たい感覚はかなり堪えた。  少しでも酸素を取り入れようと口をぱくぱくとさせるが、肺に入ってくるのは空気ではなく幾倍にも濃縮されたメロンソーダだ。甘くて、懐かしくて、俺の大好きな、ちょっと下品な味のする炭酸飲料。  俺は、自分の吐き出したなけなしの呼気が細かな気泡となって、メロンソーダの海の中をゆらゆらと上っていく様子にただ見入った。  そのうちに、俺と鉄生の間には少しの隙間も無くなっていた。 「どうよ、洋介。全部入っちゃったみてーだけど、例の何だっけ? あのアレの感じは?」  鉄生が喋るたびに彼の口からも空気の泡が溢れ、俺の目前で弾けて消える。……にしても、非常にタイムリーな質問だ。  ――最高だ。ありがとう、鉄生。  感謝の気持ちを込めて、俺は鉄生に向かってがくがくと頷いて見せる。 「……はぁ、そりゃ何より。ま、コレも危険行為っちゃ危険行為か」  呆れたように吐き捨てると、鉄生は猛然と腰を使い始めた。  しゅわしゅわと泡立つグリーンの海に溺れながら、俺は暴力的なまでの打ち付けに必死で耐える。いつ飛んでもおかしくない意識を繋ぎ止めるため、無我夢中で鉄生の肩にしがみついていると、びりびりと電流が走るばかりだった体の深奥にじわりと熱が湧き上がった。 「すげー声。近所迷惑」  そう言われてはじめて、俺はいつの間にか自分がすすり泣きのような声を上げていることに気が付いた。  慌てて両手で自分の口を塞ぐ。息ができなくて、熱くて、情けなくて、気持ちいい。  鉄生の動作、一つ一つに己の行いを非難されているように感じる。腹いせじみた意地の悪い突き上げにダメな所を強く擦りあげられ、俺はびくびくと中を痙攣させてた。 「あーー、最悪、もう訳わかんねー」  譫言のように呟きと共に、俺の体が鉄生の巨躯に押しつぶされる。そうして密着して初めて、俺は自分が勃っていることに気が付いた。  俺の中の、一番奥にぴったり嵌まり込んだソレが、行き止まりをぐりぐりと捏ね回す。そのたびに、体と体の間に挟まれてた俺の屹立が圧迫される。  それだけでもおかしくなりそうなのに、壁だと思っていた最奥が開いていっているような得体のしれない感覚に襲われ、俺は思わず切羽詰まった声を上げた。 「っぁあ、ダメ、これダメなやつ、」 「うるせー、っ、知るかッ!!」  見上げた視界がちかちかと蛍光グリーンに瞬く。薄いセロファンの膜の向こう側で、泣きそうな顔をした鉄生が吼えた。  とっくの昔に快感で焼け切れた心の隅で、罪悪感が頭を持ち上げる。 「鉄生、」  ごめん、そう言いかけた俺の口を、今度は鉄生の大きな手が塞ぐ。次の瞬間、肩口を、がり、と固い感触が貫いた。  ――あ、噛まれた。  遅れてやって来た鈍い痛みを、どうしようもない絶頂感が塗りつぶしていく。 「っ、っ、ッ、――く、」  イく、その二文字すら舌が痺れてまともに発音できない。  がくがく震える腰の奥で、死んでしまいそうなくらい熱いものが弾けた、ような気がした。  ――俺の記憶にあるのは、ここまでだ。

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