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新婚旅行〜④
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泥のように重たい身体。糊で引っ付けたみたいに開かない瞼。喉の奥から焼けるような熱い息が漏れる。
「…ぅ、んん」
「っ、秋。…しっかりしろ」
精一杯頑張って貼り付いた瞼を抉じ開けると、心配顔の双葉さんが真上から僕を覗き込んでいた。
「気が付いたか。…良かった」
「…ふ、たばさん。…ぼく」
喉が焼ける様に痛い。頭もガンガンする。
「風邪だよ。…まったく、無茶をしたな」
「………、っ、だ、って、」
「ああ、泣かなくていい。無茶をする程、楽しみにしていたんだよな。 悪かった。体調の変化に気付けなくて」
「ふ、ぅぅ、…ごめ、なさい…、双葉さん」
「いいんだよ、秋。そんなに泣くな」
ごめんなさい。ごめんなさい。双葉さんごめんなさい。風邪で、ごめんなさい。
あの時本当は、僕にもやっと始まったんだと思ったんだ。だって、話に聞いていたのと似た症状だったから。それなのに……
「ごめんなさい…、双葉さん」
「困ったねぇ。そんなに何を謝るんだ?旅行ならまた来ればいい。秋と出掛けられるなら、仕事なんかほったらかしたっていいんだから」
「…ぅ、…え? 、…それは、ダメですよ」
「いいんだよ。…それに、来年からはもう少し時間も取れるようになる。弟達に、幾つか会社を任せる事になったんだ」
「…え?、ほ、んと?」
「ああ。だから、秋は気にしないで、今はゆっくり身体を休めなさい。年が明けて落ち着いたら、次はちゃんとした新婚旅行に行こうな」
「っ、…あ、え?」
「秋、これが新婚旅行だと思ってただろ」
「ぅ…、あ、ぅ… …はぃ」
「ごめんね。秋に我慢ばかりさせたね」
「…う、ううん。ぼく、…ふっ、ぅぅ…ううん」
ふるふる頭を振って、違うんですって言いたいのに、我慢なんてちっともしてないって伝えたいのに、涙は後から後から溢れてくるのに、肝心の言葉が出てこない。
双葉さん、双葉さん。
こんな僕でもいいんですか?
双葉さんこそ我慢してませんか?
発情期すらない、こんな出来損ないで、
……ごめんなさい。
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