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新婚旅行〜③

 今日はゆっくり過ごして、明日麓の温泉街に行こう。双葉さんにそう言われ、今は離れ家の周りを散策している。中庭をぐるりと巡り、細い林道に足を進めた。緩やかな起伏の小路を双葉さんから半歩離れて歩く。ザワザワと紅や黄に染まりつつある木立ちの中を、静かな足音だけがカサカサと響く。そろそろ日が傾き始めた山の中は、折角温泉で温まった身体の火照りを、急速に冷ましていった。羽織を着てこれば良かったな。  「足元に気を付けて。下駄だからゆっくりな」  「はい。…あの、双葉さん。 手を繋いじゃ、ダメですか?」  履き慣れない下駄は歩き難く、さっきから何度も躓きそうで怖い。せめて支えが欲しくて、そうお願いした。  「はは…、ほら。捕まって」  「はい、ありがとうござ、……あ、」  双葉さんの差し出す大きな手に捕まろうと腕を伸ばしたら、そのまま引かれて双葉さんの肘の辺りに手を乗せられた。  引かれた拍子にバランスを崩し、縋るように双葉さんの腕に両腕を絡める。  吃驚して思わず真上にある双葉さんの顔を仰ぎ見ると、またあの懐かしい香りがした。爽やかなジャスミンの香り。…これはきっと、双葉さんのフェロモンだ。もっと吸い込みたくて、絡めた腕にギュウッとしがみつく。鼻を擦り付けスーッと息を吸い込んだ。  「大丈夫か、秋。…どうしたの」  「……双葉さん、凄くいい匂いがします」  「ん? 温泉の匂いかな」  「ううん。…ジャスミンの花の香り」  「…、」  ああ…どうしよう。この匂いをずっと嗅いでいたい。この人から離れたくない。しがみつく腕に更に力を込める。ジャスミンが濃くなった。  あれ…何だろう。何だか身体が熱い…。心臓のドキドキもさっきより速い気がする…。これって、まさか、まさか……  「秋、 …秋っ」  双葉さんが呼んでる。返事、し、なきゃ…だ、め…なの、に………  「…あき、 、…き 」  

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