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お風呂当番

******  新しい年が明けた。  お正月の三が日は目の回る忙しさだった。それもそのはず、なにせ双葉さんはあの中条グループの御子息なのだ。それはそれはあちこちから、挨拶回りやらパーティやらのお呼ばれにと、引っ切り無しに駆け回っていた。  勿論妻である僕も同席しなければならない。それでも全部とはいかず、極力僕に負担にならない様にと、双葉さんは1人で出掛けることも度々あった。  松の内も明けると今度は会社の仕事初めで、幾つもの会社を経営する双葉さんは、それだけで早朝から真夜中まで休みなくあちらこちらへ飛び回っている。  僕はそんな双葉さんが心配で心配で仕方無かった。幾ら頑丈なアルファ性でも、彼だって生身の人間だ。体調を崩してはいないか、疲れやストレスで倒れてしまわないかと、気が気ではない。  「少しお休みしたらどうですか?」    その日も日付けの変わる頃、ようやく帰宅した双葉さんは何だか顔色が優れない様な気がして、僕は思わずいつもは口にしない様な事を言ってしまった。  「うん?大丈夫だよ。秋はもう寝なさい。そろそろ学校も始まるんだろう」  「でも…、」  「心配ないよ。毎年の事だ。昨年が例外だっただけだよ」  昨年は僕と結婚したばかりだったから、双葉さんも御親戚も、会社の方々も遠慮してたって事?  こんなお正月が当たり前だなんて…。じゃあ双葉さんはいつお休み出来るんだろう。  そんな僕の心配を察してか、そっと僕の頭を撫でながら、双葉さんが珍しく僕にお願い事をしてくれた。  「ねぇ、秋。秋が嫌じゃなかったら、一緒に風呂に入ろうか。背中、流してくれるかい?」  「…え? あ、は、はいっ!はい、喜んで!」  どこぞの居酒屋みたいな返事をして、僕は双葉さんのお願いに応えたのだ。  「双葉さん、気持ちいいですか?」  「ああ、気持ちいいよ」  「髪も洗ってあげますね」  双葉さんのシミ一つない綺麗で逞しい背中をボディスポンジでゴシゴシ擦る。最初は力加減が分からなくて、遠慮がちにサワサワと擦っていたら、擽ったいよと笑われた。ちょっと強い位が双葉さんには気持ちいい。うん。覚えた。  「お湯、かけますね」  泡の落ちたスベスベの双葉さんの背中。肩から肩甲骨にかけて盛り上がる筋肉。脇腹にも無駄な贅肉なんてまるで無くて、本当に34歳なの?って思うくらい凛々しくて若々しい。んん…、何だかちょっと抱き着きたくなっちゃうな。  榛色の柔らかい髪を、シャンプーを付けてワシワシと洗う。  「痒いところはありませんか?」  「ははは、美容師ごっこか? 大丈夫ですよ、とても気持ちいいです」  「ふふふ…」  あー、楽しい。こんなに楽しいなら、毎日だって僕が双葉さんのお風呂当番をやらせて欲しいな。  シャンプーをシャワーで洗い流し、コンディショナーで整えて、もう一度シャワーをかける。  「はい。お終いです」  「ありがとう。 …秋も洗おうか」  「え?…ぼ、僕はもう入りましたから、いいですよ」  「なんだ、俺にはお世話させてくれないのか?」  「あ、そういう意味じゃなくて、もう洗う必要がない…って! わっ!ち、ちょっと双葉さん!?」  突然双葉さんが、僕にシャワーをかけてくる。  貧相な身体が恥ずかしくて、Tシャツと下着姿でお風呂に入っていた僕は、双葉さんの悪戯でびしょびしょになってしまった。  「もうっ、濡れちゃったじゃないですか」  「ははは、それじゃもう着てる意味が無いだろう。ほら、観念して脱ぎなさい」  「わっ、ちょっと、…ぅぷ」  濡れたTシャツを剥ぎ取られた。下着一枚の心許なさったらない。だって双葉さんみたいな綺麗な筋肉も付いてない、薄っぺらくて貧相な身体だから。  「…恥ずかしいです。こんなぺらぺらで」  「そうか?秋の身体は綺麗だよ。…綺麗でとても、魅力的だ」    …あ。またジャスミンの香り。さっきまでシャンプーの匂いしかしなかったのに、急にふわっと双葉さんのフェロモンが浴室いっぱいに広がった。もしかして双葉さん、少しは僕を欲しいと思ってくれてるのかな…。もしそうなら、僕、僕は…  

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