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溺愛αは眠れない ※

 仕事を終え自宅へ戻ると、そこに居るはずの秋の姿が見えない。  先日迎えた初めての発情期は一昨日終わり、夢のように濃密な一週間を過ごした後だ。もしかしたら、時折我に返っていた前後の記憶でも思い出し、恥ずかしがって隠れているのかもしれないな。  本当に可愛い子だ。  初めて迎えた発情期は、想像以上だった。おそらく、これまで抑えられてきた本能が弾け出したのだろう。  初々しくも激しく乱れ、官能を揺さぶり、何度も何度も求めて止まなかった。秋の身体に余すところなく唇を這わせ、あらゆる場所に紅い跡を残した。…そして。  あの白く発光する芳しい匂いの源へ、所有の牙を立てたあの瞬間。  まるでこの世の極楽かと思える程の、絶頂感を味わった。それは秋とて同じだ。狭い隘路に打ち込んだ欲望の楔から、長く放たれる白濁を総て注ぎ込むのに、一体どのくらい時間をかけたのだろう。その間ずっと秋は小刻みに身体を震わせ、声にならない絶頂を迎え続けていた。  終わった時にはぐったりと、秋は気を失っていた。  その後も何度もそれを繰り返し、家政婦の用意した作り置きが無くなる頃、ようやく自我を取り戻したのだ。  それが一昨日。秋はまだ、子鹿の様な足取りなはず。外に出掛けられるはずもない。  一先ず着替えをしようと、寝室のドアを開けた。あの淫靡な空間の名残はもう無い。昨日の内に、家政婦が綺麗に後始末をしてくれた。  スーツから部屋着に着替え、秋の寝室へと向かう。あの、花が咲いたような笑顔がみたい。  ノックをしようと手を上げた時、ドアの向こうから微かな声が漏れて来た。    ーーーひ、…ぐす、…ぅぅ  ……泣いている?  どうしたのだろう。  居ても立っても居られず、ノックも忘れてドアを開いた。     そこにはベッドに腰を掛け、しくしくと泣く秋がいた。  「秋っ、どうした!?」  「ぅっ…、ふ、双葉さぁん!」  泣きながら抱き着いてくる秋を抱き締め返す。一体何があったのだ。こんなに泣くなんて…。  「どうしたの、秋? 何があったんだ」  「ふぇ…、ぇ、ぇっ…ううぅ」    ああ…可哀想に。お前をこんなに泣かすなんて。教えておくれ。理由を知らなければ、どう慰めたらいいのか分からない。  「秋…。一体何があった?」  「ぐす…ぐす…、あの、双葉さん」  よかった。どうやら話しは出来そうだ。  「どうしたの?」  「あの…、ぼ、僕ね。 へ、変なんです」  何処が? お前に変なところなんて一つもないのに。  「何か、気になる事でもあったのか?」  「はい…。 その…。 」  いつも素直な秋が言い淀む。どんな言い難い事でも、ケロッと口に出す子なのに、こんなに躊躇するのは珍しい。  「教えてくれるかい、秋?」  「……、はい。 あの、み、見て欲しいんです」  そう言いながら、徐ろにシャツを託し上げた秋は、ここが痛いんですと、目に涙を浮かべ、顔を真っ赤に染めて、泣くほど悩ませた原因を俺に見せた。  「っ、!」  「今日、1日中、ここが服に擦れて、ヒリヒリするんです。 見たら、こ、こんなに赤くて…、は、腫れてて…、ぅうっ…」  そこは確かに真っ赤に腫れて、痛々しかった。   「僕、…変な病気なんでしょうか?」  「違う…、」    ああ…、秋。 それは病気じゃない。寧ろお前じゃなくて、俺の方がおかしいんだ。  「お前のここが、あんまりにも可愛くて、だいぶ弄り倒してしまった俺のせいだ」  「え…?」  「すまない、秋。 痛かったろう」  赤く熱を持ったそこを、ペロッと舌であやす。  「ひゃあっ、…あ、…ぁ、んっ」  舌先で触れたそこは、熱く熱を持っている。こんなになるまで捏ね回してしまったのか。辛かっただろう。ごめんよ、秋。  それにしても、この舌触りの良さは癖になる。  コロコロと舌で転がし、先端を舌先でノックすると、たちまち秋の口から甘い声が漏れ出す。  「あっ…あ…、ふ、双葉さんっ、そんなに舐めちゃ、ダメですっ、、…んっ」    ああ、可愛い…。どうしてこんなに可愛いんだろう。  秋のオメガフェロモンが急速に立ち昇る。なんて甘い香りだろう。誘惑に負けて強引に襲ってしまいそうだ。  ペロペロとあやしていた筈が、いつの間にかちゅくちゅくと吸い付いてしまっていた。  「あっ、あんっ…、も、 吸っちゃダメですよぉ…」  「秋… 秋… 」  硬い蕾のようだった小さな突起は、あの一週間の発情期間中、ずっとこうして吸い付き舐め回し、指で転がし摘まんだり捏ねたりしたせいで、弾力のあるグミのように柔らかく膨らんでしまった。  これは俺のせいだな。是非とも癒やしてやらなければ。  泣くほど痛がっていた筈が、今は腰を揺らし膝を擦り合わせ、必死に快感を逃そうと、小さな抵抗をする秋は、何故か背徳感と戦っているようだ。  「秋? 気持ちいい時は、素直に感じていいんだよ」  「あ、あんっ、…で、でも…、」  「ほら。 こっちもすっかり硬くなった」  俺の手のひらにすっぽり収まる程、ささやかな雄の象徴である秋のそこは、既に硬く張り詰め、時折ぴくりぴくりと手の中で跳ねる。それをパジャマのズボンの上から優しく揉み込む。  「だ、ダメですっ、双葉さんっ」  「駄目じゃない。…さぁ、秋。 どうしたいか言ってごらん」  「あっ…、あっ…、ダメなの、ダメ、あっ…」  ダメダメと、抵抗をみせながらも、無意識なのだろう。腰をクイクイと揺らし、甘い香りを撒き散らしながら、俺の手に擦り付けるように動かしている。もう少しハッキリとした刺激を与えてやろう。素早くパジャマの中へ手を差し込み、下着越しに再びそこを揉みしだくと、その瞬間はあっという間に訪れた。  「あぁっ、ダメっ、ダメなのにぃ…っ」  クゥン…っと、仔犬のように鼻を鳴らし、ブルブルっと華奢な身体を震わせる。硬く目を綴じながら口元に拳をあてて、訪れた絶頂に耐えきれず下着の中へと吐精した。  キャラメルナッツの甘く芳しいフェロモンが濃くなった。脳髄を刺激するような甘い香りだ。  ただでさえ、はぁはぁと荒い息を吐き出し、頬を朱に染めた淫靡な姿に、嫌というほど欲情を煽られているというのに。  もう、我慢出来ない。  「秋っ、」  そっと、支えていた身体をベッドへ横たえ、覆い被さるように顔を覗き込み、秋の可愛らしい唇に吸い付こうと顔を寄せると、健やかな寝息が耳に届く。  え…、ちょっと待て。待ってくれ。  まさかこの状況で、俺は置いてきぼりにされたのか?  …蛇の生殺しとはこの事か。  いっそこのまま服を剥ぎ取り、欲望のままにあの蜜壺へと、この張り詰めた楔を打ち込んだらどうだろう…。  赤く腫れた胸の飾りは、先程の舌での愛撫に未だ濡れて艶めかしい。時折ヒクリ、ヒクリと絶頂の名残りなのか、痙攣する身体が愛しくて堪らない。  しかし……。  ふ、と我に返り、綴じた瞼から滲んだ涙の跡を眺めた。…うん。いけない。こんな幼気な可愛い子に、俺はいったい何をしようとしていた?  同意の無い行為は、如何に愛し合う夫婦と言えどもしてはいけない。人として、男として恥ずべき事だぞ、双葉。  さあ、秋の身体を綺麗に整えてやるんだ。お前が今やるべき事は、汚れた下着を取り替える事だ。  無心になって、眠っている秋の下穿きを取り去り、そこを綺麗に拭った。秋のクローゼットから、清潔な下着を用意し着替えをさせる。  痛いと泣いていたその場所に、薬箱から軟膏を取り出し指に取り、優しく優しく塗ってやる。これはかなりの苦行だな。    「…ん、ふぅ… ん」  んんん…っ。 駄目だ、秋。そんなに可愛らしく鼻を鳴らすんじゃない。  必要以上に軟膏を塗ってしまう。いけない。  秋の眉間に小さな皺がより、またもやクゥンと仔犬の鳴き声が上がる。  「…っ、 クソっ」  カチカチに張った股間が痛む。下腹にドス黒い欲望がマグマのように煮え滾ってきた。目眩く発情期を終えたばかりだというのに、この色狂いのような、抑えられない感情は何なんだ。    断腸の思いでそこから指を剥がし、悪戯ばかりしてしまう悪い手を、ペシンと叩いてやった。  すまない、秋。少しだけ待っていておくれ。  ベッドに天使の様な寝顔をした可愛い妻を一人残し、いそいそとバスルームへ急いだ。  一度吐き出してしまえば、どうという事はない。ついでに風呂も済ませ、スッキリとした気持ちで再び秋の部屋へと足を運ぶ。  「ーーーっ!」  何故だ…。さっきまで、良い子に仰向けで寝ていた筈だろう。 何故……  ーーー尻をこちらに向けているんだ!  仰向けにすやすや寝ていた筈なのに、秋は今ゴロンと横を向き、こちら側に尻を向けた状態で眠っていた。細い腰からなだらかに続く、小さいが丸みのある双丘。ついニ日前に、あの柔らかい尻たぶを鷲掴んで拡げ、腰を刺し入れた記憶が蘇る。  なんて事だ……。せっかく宥めすかし、大人しくさせた暴れん棒が、再びムクムクとヤル気を取り戻してしまったじゃないか。  ーーー試されている。  そうか。これは試練だな。そうなんだな、秋。  いいだろう。その試練、乗り越えてやろう。  この幼い仔犬の皮を被った可愛い小悪魔を、胸に抱きながら眠ってやるさ。  尻の誘惑に負けじと、秋を抱きかかえて自室のベッドに連れ込んだ。  ーーーもしも、だ。  もしもお前が、俺が眠りにつく前に目を覚ましたら、その時はさっきの続きを聞き入れてもらうぞ。大丈夫だ。今夜はとびきり優しく可愛がってやるから。発情期は終わったが、俺達は夫婦だからな。夫には妻を可愛がる権利がある。  そしてそれに応えるのが、お前の役目だろう?いつだったか言っていたよな。  『奥さんなんだから、旦那様にご奉仕するのも努めでしょう』  …って。  腕の中のあどけない寝顔を眺めながら、その瞳に自分が映る時を、今か今かと待ちながら夜は更けていった。 ******  「ーーー社長? 聞いてますかっ?」  「……ん? ああ。 何だっけ?」  秘書が大きな溜息をつく。  そんなに呆れなくてもいいだろう。今日は特に急ぎの仕事なんか無かった筈だ。今だって、単なるスケジュールの確認だろう。そんなのお前が把握していれば問題はない。  「午後からはシャンとして下さいよ?今日は宗次さんが来ますからね」  「わかってる」  しまった。宗次が来るのは今日だったか。今夜は早目に帰ろうと思っていたのに、アイツが来るとなると夕飯ぐらいは付き合わねばならないぞ。…面倒だな。  「それから。社長のヒート休暇中に、宝条家の方から連絡が有りました」  「宝条家? 誰からだ」  「隆法さんです。 例の件は進展なし、との言付けでしたが」  「そうか。 分かった」  まだ見付からないか。その事も宗次に伝えなくてはならないな。出来るだけ簡潔に済めばいいが。アイツ、ちょっとしつこい所があるからな。    ああ…。それにしても眠たい。瞼を綴じたら直ぐにでも眠れそうだ。  相変わらず、秘書がスケジュールの確認とやらを繰り返し告げてくる。まるで念仏だな…。  「社長っ!」  ……はいはい。 聞いてますよ。              「よう、双葉。 色ボケだって?」  午後の遅い時間になり、3つ年下の従兄弟がにやけ面で現れた。下卑た物言いをしながらも、この男の醸し出す高貴さは失われない。何しろ宝条家の次男だからな。中条の家も大概だが、宝条家はサラブレッドアルファ種だ。歴代の当主夫妻は皆アルファ。うちとは格が違う。とはいえ、この宗次だけは変わり種だが…。  「…違う。 単なる寝不足なだけだ」  「何が違うの? 寝不足になるほど仲良くしてるって事だろ。 このスケベ」  「………」  仲が良いのは否定したくないが、スケベというレッテルは剥がしたい。…間違いではないが。  「何を言う。秋なら昨夜、すやすやとグッスリ眠っていたぞ」  「グッスリ? ぐったりの間違いだろ」  わはは、じゃないっ!まったく。何を想像したんだ、この野郎。  「おっ、と。揶揄いすぎたか。 そんなおっかない顔するなよ。可愛い秋ちゃんに嫌われるぞ」  「お前が下品な事を想像するからだっ」  誓って昨夜は、あれ以上の事はしていない。  そうだ。あれから秋は、朝までぐっすりと眠ったのだ。待ちわびる俺の腕の中で、天使の寝顔を見せてくれた。朝まで。一度も起きずに。    「かなりの忍耐を要したが、愛しい妻の寝顔を、一晩中眺められる幸せを噛み締めただけだ」   「双葉、おまえ…」   「俺の隣で眠ると安心すると言われた。だからもう、今夜からは同じ寝室で休む事になったんだ」  未だ独り身の宗次に、ここぞとばかり惚気けてやろう。せいぜい羨ましがればいい。ついでにちょっとした牽制だ。今日はなるべく早目に要件を済ませろ、とな。  「何? まだ寝室を分けてたのか?」  「当然だ。夫婦といえども、プライベートは尊重すべきだろう」  「よく言うよ。 そのプライベートな空間で、いったい何を想像してたのやら」  「煩いぞ、宗次っ」  そうなのだ。今までうっかり襲ってしまいそうで、ベッドを共に出来なかったが、今朝目覚めた秋は『目が覚めたら双葉さんが隣に居てくれて、僕嬉しかった』と、頬を染めて幸せそうな笑顔を見せた。そんないじらしい事を言われたら、もう寝室を別々になど出来るものか。  今夜からは一緒に眠ろう。そう言うと秋は、花が咲いたような、あの大好きな笑顔を向けてくれたのだ。  可愛くていじらしくて、ちょっとお惚けな、愛しい妻の喜ぶ顔が見られるのなら、寝不足くらいどうと言う事はない。  「おい、双葉。 おまえ、その顔やめろよ」    それに、あれだ。暫くはあの治療もしてやらねばならない。多少…、いや、大いに忍耐を要する治療だが、俺以外にやらせる訳にはいかない。  秋は自分でやると言っていたが、それは駄目だ。秋が自らあの場所を捏ねる姿を想像して、危うく血管が切れそうになった。  俺の命に関わるからと説得し、あの治療は俺がすると受け入れてもらった。  「おーい、 双葉さーん?」  今朝も早速軟膏を手に取り、恥ずかしがる秋にシャツを捲くり上げさせ、突き出すように胸を張らせた。ぷっくりと膨れた双つの粒は、幾分赤味は引いていたが、まだまだ痛々しい様子だった。  そりゃそうだ。駄目だと言われつつも、舐め擦り吸い上げて、存分に可愛がってしまったのだから。  そこへヌルヌルと軟膏を塗り込む作業は、実に愉快でもあり、…正に苦行そのものだった。  触れる度にクンクンと鼻を鳴らし、薬を塗り込む度にピクンピクンと身体を跳ねさす秋は、この世のあらゆる官能を寄せ集めたかの様な妖艶な様で、思わずこちらの鼻息が荒くなるのを隠すのに苦労した。  あれは相当、忍耐力を鍛えられそうだ。  「ああ…、早く帰りたい」  おっと、いけない。まだここは会社の執務室だったな。  ふと、気付くと、向かいに座る従兄弟と、斜め左側に待機していた秘書の視線が集まっている。心做しか、その視線が痛い。  「あ、あー…。双葉、その、 うん」  「社長ぉ……、」  「…………」  言うな。分かっているから、言わないでくれ。  「お前が相当の“むっつり”だってのは、よぉ~く分かったよ」  肩を竦めた苦笑いの宗次と、額に手を当て溜息を吐いた秘書。  だから分かっていると言ってるだろう。  くそっ。今すぐ帰って秋に会いたい。    

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