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愛されΩのひとりごと〜夏の夕暮れ

 中条家の別宅には、それはそれは素晴らしいイングリッシュガーデンがある。どの季節もとても美しいけれど、僕はとりわけ夏のこの庭が好きだ。  濃い緑と色とりどりの草花。水路の小川が日差しを反射して、キラキラと輝いている。  ここで初めて、双葉さんを素敵な人だと意識したんだよなぁ。  初めての顔合わせで『庭を散策しませんか』と誘ってくれた双葉さん。  僕の緊張を溶き解して、太陽の様に眩しい笑顔を向けてくれた。  あれからもうすぐ、3回目の結婚記念日。  僕はすっかり双葉さんの虜になった。  「秋。 暑くないかい?」  「大丈夫ですよ。風が気持ちいいです」  庭園の東側にある六角形のガゼボには、小さなガーデンテーブルとアイアン調のチェアが2つ。二人がけのベンチが1つ並んでいる。  僕達はそのベンチに寄り添って座り、日の傾き始めた夕刻の庭を、静かに眺めていた。  「そろそろ室内に戻ろうか」  「ううん。もう少し、ここにいたいです」  ふっ、と、優しく笑う双葉さん。その肩にそっと凭れると、大きな双葉さんの手が僕の髪を撫でてくれた。  「どうしたの?今日はやけに甘えるね」  だって。こんなに長い時間二人っきりなんて、久々なんだもの。甘えたくもなりますよ。  「ダメですか?」  「いや。 嬉しいよ」  「ふふふ」  きっとそう言ってくれると思ってました。  僕はますます甘えたくなり、ジッと双葉さんのキラキラとした紅茶色の瞳を見つめる。  「…ん」  そっ…と、望むものをくれた。  優しくて蕩けるような、甘いキス。  「秋。 愛してる」  「僕も愛してます。双葉さん」  揺れる瞳に僕を映し、双葉さんがまた顔を近付ける。僕は軽く口を開けてそれを迎えた。   「ん…、ふ…、」  教えてもらった様に鼻で息をしながら、くちゅくちゅと舌を絡め合う。無意識に腰が揺れる。  ひとしきり互いを味わった後、チュッと音を立て、名残り惜しそうな銀糸を引いた。  熱を孕んだ視線を交わし、すっかり息の上がった僕の身体を、双葉さんはふわっと抱き上げる。  「もう部屋に入ろう。 秋を思いっ切り可愛がりたい」  「ふふ…、僕も。 双葉さんに、たくさん可愛がって欲しいです」  逞しい腕に抱かれ、ジャスミンの濃厚な香りのする、双葉さんの首に腕を絡め顔を埋める。  蝉の鳴き声が、煩いくらい囃し立てる庭園を横切り、僕達は愛しい我が家へと戻って行った。

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