21 / 26
愛されΩのひとりごと〜夏の夕暮れ
中条家の別宅には、それはそれは素晴らしいイングリッシュガーデンがある。どの季節もとても美しいけれど、僕はとりわけ夏のこの庭が好きだ。
濃い緑と色とりどりの草花。水路の小川が日差しを反射して、キラキラと輝いている。
ここで初めて、双葉さんを素敵な人だと意識したんだよなぁ。
初めての顔合わせで『庭を散策しませんか』と誘ってくれた双葉さん。
僕の緊張を溶き解して、太陽の様に眩しい笑顔を向けてくれた。
あれからもうすぐ、3回目の結婚記念日。
僕はすっかり双葉さんの虜になった。
「秋。 暑くないかい?」
「大丈夫ですよ。風が気持ちいいです」
庭園の東側にある六角形のガゼボには、小さなガーデンテーブルとアイアン調のチェアが2つ。二人がけのベンチが1つ並んでいる。
僕達はそのベンチに寄り添って座り、日の傾き始めた夕刻の庭を、静かに眺めていた。
「そろそろ室内に戻ろうか」
「ううん。もう少し、ここにいたいです」
ふっ、と、優しく笑う双葉さん。その肩にそっと凭れると、大きな双葉さんの手が僕の髪を撫でてくれた。
「どうしたの?今日はやけに甘えるね」
だって。こんなに長い時間二人っきりなんて、久々なんだもの。甘えたくもなりますよ。
「ダメですか?」
「いや。 嬉しいよ」
「ふふふ」
きっとそう言ってくれると思ってました。
僕はますます甘えたくなり、ジッと双葉さんのキラキラとした紅茶色の瞳を見つめる。
「…ん」
そっ…と、望むものをくれた。
優しくて蕩けるような、甘いキス。
「秋。 愛してる」
「僕も愛してます。双葉さん」
揺れる瞳に僕を映し、双葉さんがまた顔を近付ける。僕は軽く口を開けてそれを迎えた。
「ん…、ふ…、」
教えてもらった様に鼻で息をしながら、くちゅくちゅと舌を絡め合う。無意識に腰が揺れる。
ひとしきり互いを味わった後、チュッと音を立て、名残り惜しそうな銀糸を引いた。
熱を孕んだ視線を交わし、すっかり息の上がった僕の身体を、双葉さんはふわっと抱き上げる。
「もう部屋に入ろう。 秋を思いっ切り可愛がりたい」
「ふふ…、僕も。 双葉さんに、たくさん可愛がって欲しいです」
逞しい腕に抱かれ、ジャスミンの濃厚な香りのする、双葉さんの首に腕を絡め顔を埋める。
蝉の鳴き声が、煩いくらい囃し立てる庭園を横切り、僕達は愛しい我が家へと戻って行った。
ともだちにシェアしよう!