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第21話 僕は聞いてほしかった。 2
「……腫れてしまいましたね、目の回り」
作ってもらた夕飯を食べている最中、春海さんが僕に話しかけた。
「怖い夢でも見てしまったのかしらね」
「……まぁ、そんなとこ?」
あんまり聞いてほしくない内容だったから僕はそれで終わりしにたかった。
けどここで終わりにしてくれなかった。
「辛いことは話すことで分かち合えるのよ。楽になれるわ」
「そんなに軽々しく聞かないでよっ!!……幸せなあんたたちには僕の気持ちは分からないから」
「ふぎゃぁぁっ」
僕の大声に俊が驚いたようで、泣きわめく。
小雪さんはあわてて俊をあやしはじめた。
そして春海さんは申し訳なさそうに、僕に謝った。
「そうね……誰でも聞いてほしくないことがあるものね。ごめんなさい、ヒカリさん」
なんでこんな僕に優しくしてくれるんだろ。
『美しい』だけが取り柄な僕をなんで優しくしてくれるの。
こんなに優しく謝ってくれたのは……オッサン以来だから、感極まって僕の目に涙が溢れる。
「あ、いや。……こっちこそごめん。僕は……ちょっと普通と違うから、話したくない内容があるって言うか……」
知られたらきっと引かれる。
誰も知らない『僕とオッサンだけの秘密』。
オッサンは……墓まで持ってったんだ、僕も持っていかなきゃ。
「お風呂先に使ってください、ヒカリさん」
「……いいよ、僕は最後で。買い物しに行きたいし」
春海さんの好意を僕は断った。
下着ないし、コンビニ行かなきゃ替えがない。
「こんなに夜遅くに未成年が出歩くなんて、駄目よ。危ないわ」
「コンビニだけだから大丈夫」
「私がついていくので大丈夫です」
横から絶対に入ってこないと思った紅葉が、なんでもないように割って入ってきた。
「……あんたはいいよ、紅葉。来ないで」
「帰ってこれなくなってしまったら危ないわ、一緒に行って下さいね、紅葉」
「はい」
よりにもよってあんたと夜に歩くなんて嫌だ。
だってあんたなんでしょ、あのキス。
現実に引き戻してくれたキスは、あんた以外にあり得ないから。
「僕は危なくてもいいんだよ、春海さん」
僕は数日前まで拘束されていた跡を見せた。
「……ヒカリさん」
「ごめん、春海さん。まだ食べてるのに、汚い跡なんて見せて」
『ご馳走さまでした』と手を合わせてから、使った食器を流しに持っていき、水に浸けた。
僕は出来るだけ浴衣を直して、そのまま『使いなさい』と紅葉に出された下駄を引っ掻けて、夜道に消えた。
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