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第25話 僕は聞いてほしかった。 6

この僕が必要とされている? ……平日なのに。 その事実は嬉しいことだけど、僕は救われちゃいけない。 僕はオッサンを見殺しにしているんだ。 「僕は紅葉の申し出を受け入れたい。……けど無理なんだ、オッサンはどうしても忘れられない。『僕のせいで死んだ人間』がいるのに僕は幸せに浸れない」 僕は紅葉の身体を押したら、退いてくれた。 「何故ヒカリは幸せに浸れないんだ」 「『オッサンは僕のせいで死んだ』から」 だから僕は幸せになったらいけない。 生きてく上で、幸せを求めたらいけない人間だから。 「そのヒカリのせいで亡くなった人は、幸せではなかったのか?」 死んだのに、自分で死を選んだのに『幸せ』なんてあり得るのか、僕には理解できなかった。 「ヒカリの中にその人は『まだいる』。『命は尽きている』、だがヒカリの中にはまだ『存在』し生き続けている」 なに? そんな宗教じみたこと言わないでよ。 それにそれは『綺麗事』だ。 「『愛したヒカリ』にそこまで想われている彼は『幸せ』じゃないのか」 「そんな綺麗事言ったって、オッサンは救われない」から 「『綺麗』『美しい』と言われることは好きなんだろう、ヒカリ」 それとこれとは話が違うと思う。 「何であんたは読めないんだ」 「読めているだろう」 そういうと、紅葉は『伊達眼鏡』を外した。 目を読めと言っているのだろうか。 確かに僕を引き留めようと必死なのは分かるけど。 「嫌になるくらい抱いてやるし、愛してやる。俺は本命になれなくてもいい。『愛人』で構わない」 なんだか立場が逆転してるみたいだ。 「私は『ヒカリが本命』だ。『浮気』はきっとしない。……それが『分家の業』の定め」 業? なに言ってんのか僕にはよく分からないんだけど。 「好きだ、ヒカリ」 その『好き』と言う言葉に一瞬ときめいた。 まだ出会って数日しか経っていないのに、童貞や処女みたいに僕はときめいている。 「私を粗大ゴミにしないでくれ」 『粗大ゴミ』としての気持ちは痛いほど辛いのが分かるから……。 「僕は紅葉に一瞬しかときめいてないからね」 「必ず落としてみせる。一生かけて大切にする」 「僕は大切にされるだけじゃ物足りないから」 「身も心も悶えるくらいに良くしてやる」 僕は溜め息を深く付いてから、 「……何があっても僕を護ってね」 「約束しよう」 「約束じゃ嫌だ。僕に『誓え』!!」 僕と紅葉は、『ゴミ置き場』で、将来を誓い合う激しいキスを交わした。 やっぱ、あの眠りながら泣いてときのキスは紅葉だった。 薄くて暖かい同じ唇からのキスだった。

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