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4日目/2

 階段下に並ぶ郵便受けを目指し、自転車から降りた時だった。白い人影が、まるで上階から転げ落ちたかのような痛々しい姿で倒れているのが見えたのだ。 「ひっ…!!」  近くに寄れば、頭部を中心に広がる真っ赤な血の海。髪の色は…この数日で見慣れてしまった、淡い水色で。 「おい…おい、大丈夫か?!おい!!死なせないって言っただろ…?目を開けろ、おい!」  今が真夜中なんてのはお構いなしに叫んだ。強まる雨に声は消され、幸いクレームをつけにくる住民は居ないようだが…。  自分の不甲斐なさが悔しくてたまらない。今日はどんな死に方を、だ?楽しんでいたのが馬鹿みたいだ。彼が毎日死に方を探し、虚ろな目をしていた事くらいわかっていた筈じゃないか。  どうにかして彼を助けないと。まだ血は赤い。そう時間は経っていないみたいだ。俺が道順を変に工夫しなければ。1分でも早くアパートに配達に来ていたら、止められたかもしれないのに……っ。 「目を…っ、開けてくれ」 「開いてるし」 「はぇ??」 「開いてんのに開けてくれは悪口っしょ。俺そんなに目細いかなぁ?」 「え?な……なん…???」  正常ではない思考回路では、彼の饒舌すぎる返答について行く事は不可能だった。  何事もなかったかのように俺の腕から離れ、先程まで不自然な方向に曲がっていた腰を押さえてストレッチを始める始末。  これは…これは、もしや。 「俺を…騙したのか?」 「雨ン中配達とかマジ地獄だし、帰る前に一発笑っといた方が気晴らしになんじゃん?」 「………あのなぁ」  突然の事で気付かなかったが、周辺には血液の臭いなど一切無く、代わりにトマトの美味そうな香りが広がっているのみ。  トマトソースってのは本来、パスタに絡めたり米と炒めて玉子を被せたりするもんだ。間違っても地面にぶち撒けてドッキリに使う目的で作られたものではない。農家さんや製造会社に謝れ!地面にホットドッグを付けてジャリジャリしたパンを味わえばいいんだ!  文句なんて山ほどある。騙されたこと、勿体無いこと、全部言ってやりたいのに。ここじゃ人が起きる心配があるから、少し場所を移動して。まだ昇ってない太陽が沈むまで正座させてやりたい。そう思うのに、何故か俺の身体はいう事を聞かなかった。 「何とも無くて…安心した。無事で良かった」  美しい髪にまで付着したソースのせいで、俺の方も汚れただろう。だが、そんな事はどうでもよかった。 「…ヤナセ今日いつもより汗臭いよ」 「仕方ないだろ。途中までカッパ着てたんだから我慢してくれ」 「っはは、そりゃ可哀想だわ」  君が生きていたというだけで、張り詰めた心はじんわりと温まっていく。硬い氷がゆっくりと溶けて行くように。、  初めて触れた君の身体は熱を持ち、しっかりと心臓を動かしていた。吐息がたまに耳にかかってくすぐったいところまで、何を見ても、何を聞いても、君はちゃんと生きて、息をしている。 それで十分だった。  若者のちょっと手の込んだ悪戯でこんなにも泣きそうになるなんて、おっさんと呼ばれても否定は出来ないな。

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