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5日目/4
「もう戻ったら。…死なないし、寝るだけだから…」
「……」
「…ヤナセ?」
「…あぁ、いや」
苦しむ彼を楽にさせてやる事が出来れば。だが、その方法を俺は知らない。思いついた唯一の手段は下心に満ちていて、とても口に出せるものでは無かった。
プレゼントに薬を仕込んだ胸糞客と同レベルの事を考えてしまった気がして、歯を食いしばって堪える。
こんなに辛そうな青年を前にして、欲情してしまっただなんて申し訳なくていっそこちらが死んでしまいたいくらいだ。
俺が君の為に出来る事は他に無いんだろうか。
……そうだ。
「なあ、バイトが終わったらもう一度来てもいいか」
「…は?なんで」
「仕事に行くまでのほんの数時間だ。…一人きりでいるより、少しは気持ちも楽になるんじゃないか」
今までまともに会話らしい会話もしてこなかった彼が、初めて自身の事を話してくれたのだ。くだらない話でもいい。まだ少し引っかかるが、おっさんと呼んでバカにしてくれてもいい。
少しでも心安らぐ時間を作ってあげる事が出来れば、自殺願望も多少はマシになるんじゃないか…なんて。
「……人生損しそうなほどいい人」
「ダメ、とは言わないんだな」
「勝手にしたら?ま…今度こそ、俺のココ慰めて……もらうかも、ね」
君が望んでくれるのなら、喜んで。いくらでも。
流石に寒気がするそんな台詞を吐く気にはなれず、臨むところだと言わんばかりに拳を突きつけ玄関へ向かった。
俺のいない間に少しでも動けそうなら、多分もう一つの部屋にあるであろう布団にくるまっていて欲しいが…動く気があるかどうか、だな。問題は。
「あ、そうだ…おっさん」
「ん?」
横座りになった青年は、100kgはありそうな腕を伸ばしてカウンターを指す。
「そこ。…どうせまた来るなら……閉めてって。勝手に入ればいい、から」
「あぁ…鍵か」
ケースもキーホルダーも付いていない丸裸の鍵とは…どこまでも君らしくて笑いそうになる。
「わかったよ。安静にな」
夜明け間近の優しい空色を眺め、青年の家を後にした。
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