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8日目/2
「おま、起きて……!!」
「そんだけ声掛けられたら起きるだろ普通〜。…へへ、ほんと変な人だねヤナセは」
左腕には大袈裟に巻かれた包帯、右腕には終わりの近づいた点滴。痛々しい方で俺の頭を小突き、太陽を取り込んでキラキラ笑う君。
溢れ出した涙はもう止まらず、年甲斐もなく声を上げて泣き出すいい大人に常葉 は苦笑いだ。
目を開けてくれた。君が、もう一度俺を瞳に映し、名前を呼んでくれた。笑ってくれた。
「センセーから聞いたよ。おっさん昨日もキモいくらい泣いてたって」
「そ…それは、その……」
「……何で俺みたいな奴にそこまでするわけ」
伸ばされた手に自ら指を絡め、負担にならないようシーツの上へ導いた。さっきより少し強めに握られた感触が、今までのどんな相手と繋ぐより心地よくて。
これに理由なんてあるだろうか。必要だろうか。
ただ、君の手が好きだ。ただ、君の笑顔が好きだ。
毎日自殺未遂を繰り返すくせに、俺が行くタイミングを見計らってみたり、止めればちゃんと言う事を聞いたり。
弱気になった時も、俺の手で声を出して感じてくれた時も、何一つ嫌じゃ無かった。揶揄われた時も、頼ってもらえた時も、全部嬉しかったんだ。
「俺が、君に恋をしたから」
君が居るってだけで、世界が大きく変わる。君が笑えば俺の心は晴れ渡るし、君が辛そうにしていれば俺の心はいつまでもキツく締め付けられる。
俺の導き出した答えに、君は納得してくれるだろうか。嫌悪するだろうか。鼻で笑うだろうか。もう来るなと言って拒むか、それとも──。
「…は、はぁ?何それ……おっさんマジで…言ってんの?」
「て、照れてるのか?」
「うるさすぎ…はぁ?ちょ顔見んなし……も、サイアク…。」
予想外の反応に戸惑うのは俺だった。
適当にあしらわれるオチだと思って紡いだ言葉が、どうやらかなり…かなり……。
「嫌じゃなさそうだな?」
「ちっ…近いんだよばーかヤナセのばーかっ!」
嬉しそうだ。
「あまり大きな声出さないでくださいね〜」
「「す、すみません!!」」
廊下にまで漏れていたのか、通りすがりの看護師に注意される始末だ。すぐに謝罪が出来るあたり、やっぱり常葉は気の遣える優しい子なんだな。
ま、俺を除いてではあるが。
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