3 / 7
第3話二人のバレンタインデー3
自宅へと向かう曲がり角でばったり陽馬と出くわした。
彼もまだ制服姿で學校帰りのようだ。
「陽馬、今帰り?」
「そうだけど、律も?」
「ああ。陽馬帰って来るの、遅くない? どこか寄り道でもしてたのかよ?」
「……別に。律だっていつもより帰って来るの遅くない?」
「……俺は、いいんだよ」
だって、おまえのためのバレンタインチョコ買ってたんだから。
そんな言葉を飲み込み、俺は更に陽馬に問いかけた。
「学とかいうやつと一緒だったのか?」
俺の声は少し不機嫌さを帯びてしまう。
学とは陽馬の親友で、俺が心の中でひそかに恋敵認定してるやつだ。
「学は彼女と帰ったから、一緒じゃないよ」
陽馬は答える。
そう、俺がまだ学とかいう親友を野放しにしてるのはそいつに彼女がいるからだ。
それでも嫉妬の気持ちは消えない。
俺と陽馬は別々の高校に通っていて昼間は会えないけど、学はいつも陽馬といれる。
例え彼女がいたとしても、陽馬のような愛くるしい存在が傍にいたらいつ寝返るかしれないから、俺としては不安が尽きない。
はあ、と小さく溜息をつけば、陽馬が目ざとくそれに気づく。
「律? どうしたの?」
心配そうに見つめて来る瞳は大きくて綺麗だが、お世辞にもお洒落だとは言えない眼鏡の所為で、それに気づく奴はいない。
陽馬は眼鏡を変えるかコンタクトにし、髪形を少しいじればものすごく垢抜けると思う。
けれど、あえて今のままでいてもらっているのは、俺が陽馬を独り占めしたいから。
原石が宝石に変わればうるさく言う虫が増えるから。
バレンタインのチョコだって贈る女も出て来るだろうし。はっきり言って勝手な俺のエゴなんだけどね。
「律? 律ってば……本当にどうしたの?」
陽馬を見つめたまま切ない物思いにふける俺に、彼が制服のジャケットの裾を引っ張って来る。
「あー、なんでもない」
俺は鞄の中に入っているチョコレートを強く意識しながら陽馬の髪をわしゃわしゃと乱すと、肩を並べて自宅の玄関をくぐった。
ともだちにシェアしよう!