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第5話 二人のバレンタインデー5
陽馬から贈られたチョコレートは猫の形をしたものだった。
「なんで、猫?」
ベッドの隣に座ってまだ慎重に包をといている陽馬に聞くと、
「だって、律って猫っぽいんだもん」
そんな答えが返って来た。
猫っぽい……そうかな? 俺自身は犬だと思うんだけど。陽馬だけの忠犬って感じで。
俺好みのビターな味のチョコレートを噛みしめながら思っていると、包をとき終え箱のふたをあけた陽馬が声をあげた。
「うわー、綺麗!」
「気に入ってくれた? 陽馬」
「うん! すっごく美味しそう。これ本当に食べちゃっていいの?」
陽馬の言葉に思わず笑ってしまう。
「当たり前だろ」
俺が言うと、陽馬はアーモンドが乗ったのを手に取り、口に含んだ。
「わー、口の中でとろける……これ、洋酒入ってる?」
「入ってるみたいだよ」
陽馬は美味しそうにチョコを食べてくれて、俺もとても嬉しくなる。
「酔っぱらうなよ」
なんて言葉は冗談で言ったのだけれど。
「んー……」
陽馬は妙に色っぽい吐息のような声を出し、俺にしなだれかかって来た。
「もっと欲しい……、律」
その艶っぽいセリフと声音に俺の心臓が高鳴る。
「は、陽馬?」
「ねーもっと欲しいってば……食べさせて……律……」
陽馬は目をとろんとさせながら俺にチョコレートを強請って来るのだが、それが妙にヤラシイ響きを伴っていて。
「律ぅ……」
「陽馬……、おまえ……」
俺は自分の買って来たチョコとにわかに色っぽくなった恋人を交互に見比べる。
……もしかして、陽馬の奴、チョコレートの洋酒に酔った?
この歳になるまで酒を飲んだ経験がないなんて、酒も煙草もとっくに経験済みの俺にとっては信じられないことだけど、陽馬みたいに真面目で純情な奴ならそれもありえるかもしれない。
でもそれにしてもこんなちょっとの量のアルコール分で酔うか? 普通。
俺は潤んだ瞳で見上げて来る陽馬に、箱から一つチョコをつまみ、小さな口元に持って行ってやった。すると。
ぱくん。
陽馬はチョコと一緒に俺の指までくわえ込む。
……あー、やっぱり陽馬、酔ってるわ。
セックスするとき、基本、陽馬は受けの状態だ。
もう抱き合って随分経つけど、今だにキスさえ、それこそ俺がおねだりしなきゃ陽馬の方からは恥ずかしがってしてくれない。
けれどもやがて快楽に溺れて行くにつれて、陽馬も我を忘れて行くんだけどね。
今が全くその状態だ。
チョコレートが口の中から消えても陽馬は俺の指をしゃぶり続けている。
誘い上戸なんて可愛すぎる。
俺はもう一つチョコを取ると、今度は自分の口に含んだ。思った通りかなり洋酒がきいているが、これくらいでこんなに酔っぱらってしまう陽馬がやはり可愛い。
デレデレしながら口移しでチョコを陽馬にあげると、すごく積極的に舌を絡めて来る。
いつもなら最初のうちはおずおずといったふうに俺のキスに応える陽馬なのだが、今日はガンガンに求めて来て、舌を吸って来た。
「ん……チョコ、美味しい……律……」
「美味しいのは、チョコだけ? 陽馬」
「……んーん。律が美味しい、とっても、美味しい……」
うっとりとした目で囁かれて、俺の理性がどこかへ行ってしまう。
「俺が欲しい? 陽馬」
そっと陽馬の眼鏡を外しながら俺が問いかけると、
「欲しい……律が欲しくてたまらないよ……ちょうだい」
あからさまに求められた。
そのあまりにも煽情的な恋人の姿に、俺の心は獣の欲望で一杯になって、淫らに命令をした。
「じゃ、自分で体を開いて、陽馬」
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