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第2話

「……少し疲れたな。横になっていい?」 「あぁ、ごめん。つい話に夢中になって。ベッドの頭、下げるね」 「うん。ありがとう」  成長期の頃に大病を患った影響で、健康に生きてきた人間よりも体調を崩しやすい君。健康管理には人一倍気を配っていた。普段風邪もほとんどひかない僕の体調にまで厳しくなるほどに。  だから。 「あと一年、持たないんだって。臓器が全部、悲鳴をあげてるらしいんだ」と言われた時は、なにが持たないんだろう。ゾウキ……? 雑木? 雑巾? なんて、全然ピンと来ていなかった。  それにあまりにあっさり、事も無げに言うもんだから……。  君は昔から肝が座っていたから、呆けている僕の頭に触れ、髪をわしゃわしゃとかき混ぜて、表情は穏やかなまま説明してくれた。 「余命がね。少ないってこと」  君の言葉に声を失ったのは、人生で僅かだ。  一度目はまだ十八の頃。僕の将来を案じた君に別れを告げられた時だった。でも、今回はそれ以上に頭が真っ白になり、声も出なくて……。  人間は生ある限り、死とは隣り合わせだ。誰しも寿命があり、それがいつ来るのかはわからないが、年齢の経過と共に「その日」が近づいてくるのを実感する。  君と長く過ごした時間の中で、死について話したことも何度かあるよね。でも、それはまだ、もう少しだけ先のことだと思っていたんだ。  最期の時も二人手を取り合って一緒に逝こうなとか、生まれ変わってもまた夫夫(ふうふ)になろうな、とか。そんな夢物語を半分本気で語り合うくらいで。  なのに……急に突きつけられた現実に、僕の方が心臓が止まりそうだった。  君が、この世からいなくなる?     過去別れを告げられた時も、身を割かれるように辛いと感じた。それでもどこかで元気で過ごしているだろう君を思えば、僕も毎日をやり過ごせた。けれど、どこにも君がいなくなること。それは僕には世界が終わるのと同じだ。  なのに、君は幸せそうに笑ったんだ。 「君が僕にしてくれた約束が叶うね」  ──約束? 「僕を迎えに来てくれた日も、それからも、ずっと言ってくれただろう? ずっとそばにいるよ。ずっと一緒だよ、って。……凄いね。本当にそうなった」  ──ああ……そうか。今になって気づいた。  確かに僕は何度もそう伝えてきた。約束と名付けるほどの重さを意識していたわけではなく、さも当たり前のことのように。  でも、君は違った。 「一緒にいられるね」「ずっと同じ景色を見て行けるね」って……言葉じり一つかもしれないけれど、君は僕に「約束」はしなかった。  わかっていたのか? こうなることを。 「泣くなよ? 喜んで欲しい。僕を一人にするなんて君には無理だろう? 死んでも死にきれずに化けて出るくらい僕を愛しているんだからね」  また、茶目っ気たっぷりに微笑む。そして、僕の反論も見越して続けた。 「だからって僕の愛が薄いと思わないでくれ。君を愛するからこそ先に逝きたいんだ。息を引き取る(きわ)には、君にそばにいて欲しい。僕が死んだら、二人の記念日には花を手向けて欲しい……これまでそうしてくれたように。そうしたら僕は、死してなお君に思われる喜びを噛み締めながら逝けるだろう」    君には敵わない。  そう言われてしまったら、僕は腹を括るしかなくなるじゃないか──

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