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女装、するのか?⑤
「……怒ってる、のか?」
そう声を掛けられたのは、今日の目的であるスーパーのお化け屋敷の列に並んでいる時だった。
「何でそう思うんだ?」
「だって、さっきから無言だから」
「ああ……」
それは苦しいくらいに高鳴っている胸の鼓動を、抑えつけるのに忙しかったからだ。
なんて言っても、困るだけだよな……。
「悪かった。隣に可愛い子を連れて歩くと、緊張すんだよ」
「お前でもか?」
「待て、俺をどんな奴だと認識してやがる?」
「どんな、って……女を使い捨てのように、一回やったらすぐに別れる人……だろ?」
「……間違った認識だな」
いや、あながち間違いでもねえか?
爽良の言葉を否定しながらも、俺は今までの己の行いを振り返ってみる。
俺は爽良の事が好きなのだとわりかし早めに自覚していた。それを隠し通そうと女に走り、好きになろうとした。
見極めのタイミングは一回致した時。その時までに好きにならなければ、すぐに別れて次へ行く。
おかげで誰からの告白も断らず、一回するとすぐ別れるので、お試し的な意味のお付き合いも多かった。
つまりはほとんど本気ではない。
プレイボーイのような実態は、情けないがそんなものだ。
「お、オレとも、すぐに別れる、のか?」
「別れる?」
不安そうに見上げてくるこいつに、俺はキョトンと首を傾げた。
何言ってんだ? そもそも付き合ってないだろう、俺たちは。
そりゃ、付き合えたら嬉しいが……。
いや待てよ、今日はデートだ。
デート、それは付き合ってる如何に関わらず甘い時間を予感させるもの。
付き合っていたら尚良く、恋人同士の最初の関門である。
今日のデートは誰かとこの先付き合った場合を想定してのもの、つまりは今日、仮にも俺たちは付き合ってると仮定しての言葉だろう。
全く、とことんムカつく野郎だ。
俺を足蹴にして、一体誰と付き合い、誰にこんな言葉を投げるのやら。
「お前とは、本気に決まってんだろ?」
なので肩に手を回し近づいた耳元でそう囁いた。
本当に、そうだったら良いのにな。
これが本当に爽良と付き合っていてのデートだったら、どんなに嬉しかっただろう。
でもそれは、今は叶わぬ夢だから、こうして遊戯に言葉を紡ぐ。
「そ、そうか……本気、か」
ああもう、俺の言葉にそんな顔しちゃダメだって言ってるだろ。
これじゃ誘ってるとしか思えねえ。
「……っ」
耐え切れなくなった俺は、もういいやとおでこにチュッとキスをした。
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