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女装、するのか?⑦

「いっち、にいで、結んでる方の足から出すな。せーの、いっち、にい」  ゆっくり、ゆっくりと足を進める。  歩調を合わせる事に夢中で、爽良もここがお化け屋敷である事から意識が逸れたらしい。  先程のような怯えた雰囲気は徐々に薄れ、順調に歩を進めていく。 「ひゃっ」  だが、そうは言ってもここはお化け屋敷。お化け役の人が驚かす、または怖がらせる仕掛けが至る所にされている。  怖がりな爽良が一人駆け出してしまわぬように、俺は『大丈夫』だと手に力を込める。 (ち、近い)  だが、爽良まで俺の腰に手を、それも両手を回してしまうと歩きづらい、というよりぐっと距離が縮まり顔が熱くなる。  震えながらも俺を頼りに、恐怖心が爆発しないように声を控えて、必死に歩調を合わせようとする姿はグッと胸に来るものがある。  そんなに、温泉に行きたいのか? その目的は本当に温泉か? 俺じゃ、ないのか?  いつか誰かと行く事を見据えているのか、女になってからは慎ましくなるその行為を、男として大胆にしておきたいからか。  どちらにしろ、俺には何も言えない。  どんな意図があっても、爽良の事には口出しせず、意思を見守らないといけない。 「李樹は、かっこいいな」  思考が靄に覆われそうになった所で、その靄を晴らす声が落とされた。  いきなりの誉め言葉に、「ん?」と小首を傾げ爽良を見下ろす。 「そんなにかっこいいお前からすると、オレは情けなさ過ぎやしないか?」 「んな事、あるわけねえだろ。俺は怖くねえからビビらねえ、爽良は怖いからビビって当然だ。当然の事に、情けないもクソもねえだろ?」 「屁理屈だな」  会話する事で、気を紛らわせようとしてるのか?  ならとことん、付き合うぜ? 「好きだぞ」  と、思っていたのだが、これは予想外の言葉だ。  好き、なんて言われると、俺の期待している方の『好き』だと思って、勝手に体の奥底から熱が噴き出そうになる。 「付き合ってくれて、ありがとな」  だが、やはりその『好き』は友情としての『好き』らしい。  今日付き合ってくれてありがとう、とは律儀なものだ。  もしかしたら爽良は、今日の予行練習をもとにして、本命をデートに誘う気なのかもしれない。 「なにデートの終わりに言うような台詞を言ってやがんだ。本番はこれから、だろ?」 「そうだ、ひゃぅっ」 「あぶねえ!」  前方の何も見えなかった場所がいきなり光り、現れた血みどろの人を見て爽良が悲鳴を上げる。  飛び上がった拍子にそのまま転びそうになったのを慌てて掴み、引き寄せると爽良から抱き着かれたような姿勢になった。  距離の近さに、思わず固まる。  光が消え再び闇に包まれると、ゴクリと鳴らした音が大きく響いたような気がした。

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