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女装、するのか?⑩
「りき?」
「ここまでにしよう、爽良。悪かったな、襲うような真似して」
「い、いや……オレは、別に……」
シャツを元に戻し、地面に落ちていたキャミソールワンピースを肩に掛ける。
スカートについていた埃を払い、さあデートの続きだと手を差し出すと、俯きながら爽良は俺の手に手を重ねた。
そのまま進もうとしたのだが、俺は立ち止まったままの爽良に行く手を阻まれ、「爽良?」と振り返る。
「……オレ、気持ち悪かったか?」
「何の事だ?」
「お、女のように声出しちゃったりとか……変な顔してたと思うし……そういうの全部、気持ち悪くなかったか?」
「全然。むしろもっと喘いで、おかしくなってる姿が見たくなったくらいだぜ?」
「そ、それは……」
不安からか、爽良の手が僅かに震えている。
いきなりやめたからな、自分に落ち度があったんじゃないかと思っちまったか。
全くの正反対なのにな。
むしろその反応に暴走しそうになるのを、抑えてる所だというのに……。
「お前の事、大切にしたいんだよ。分かるだろ?」
爽良の頭に繋がっていない方の手を乗せ、言い聞かせるようにポンポンと撫でる。
こいつが、好きだ。できればもっと攻めて、キスも一杯したい。
だが俺らは付き合っていないんだ。
好きな人相手に体だけ繋げる、所謂セフレという関係を結びたくはない。
だからこれ以上は、進んではいけない。
「爽良……好きだ」
でも、付き合っていたら?
これ以上の事も気兼ねなく出来る、自制心を働かせなくても良い関係なら?
そんな関係を夢見て、照れ隠しのような笑みを添え、俺はひた隠しにしてきた『好き』を伝えた。
「ああ、オレも好きだ」
だが返って来たのは満面の笑みから漏れるそんな言葉。
恥ずかしさではなく、嬉しさの滲み出る表情。
そんな顔に、ああこれは伝わっていないとすぐに悟った。
俺の『好き』は友達の『好き』じゃないんだ。今日のような事をたくさんしたい、そういう『好き』なんだぞ? 本当に、分かってんのか?
「嬉しい」
何も分かっていなさそうな呑気なこいつは、そう言うと俺に抱き着いてくる。
おかげで情けない顔は見られずに済みそうだが、俺は何だか泣きたくなっていた。
(約束、破っちまったな)
爽良の背中に手を回しながら、情けない顔のまま、ふとそんな事を思った。
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