12 / 27

女装、するのか?⑩

「りき?」 「ここまでにしよう、爽良。悪かったな、襲うような真似して」 「い、いや……オレは、別に……」  シャツを元に戻し、地面に落ちていたキャミソールワンピースを肩に掛ける。  スカートについていた埃を払い、さあデートの続きだと手を差し出すと、俯きながら爽良は俺の手に手を重ねた。  そのまま進もうとしたのだが、俺は立ち止まったままの爽良に行く手を阻まれ、「爽良?」と振り返る。 「……オレ、気持ち悪かったか?」 「何の事だ?」 「お、女のように声出しちゃったりとか……変な顔してたと思うし……そういうの全部、気持ち悪くなかったか?」 「全然。むしろもっと喘いで、おかしくなってる姿が見たくなったくらいだぜ?」 「そ、それは……」  不安からか、爽良の手が僅かに震えている。  いきなりやめたからな、自分に落ち度があったんじゃないかと思っちまったか。  全くの正反対なのにな。  むしろその反応に暴走しそうになるのを、抑えてる所だというのに……。 「お前の事、大切にしたいんだよ。分かるだろ?」  爽良の頭に繋がっていない方の手を乗せ、言い聞かせるようにポンポンと撫でる。  こいつが、好きだ。できればもっと攻めて、キスも一杯したい。  だが俺らは付き合っていないんだ。  好きな人相手に体だけ繋げる、所謂セフレという関係を結びたくはない。  だからこれ以上は、進んではいけない。 「爽良……好きだ」  でも、付き合っていたら?  これ以上の事も気兼ねなく出来る、自制心を働かせなくても良い関係なら?  そんな関係を夢見て、照れ隠しのような笑みを添え、俺はひた隠しにしてきた『好き』を伝えた。 「ああ、オレも好きだ」  だが返って来たのは満面の笑みから漏れるそんな言葉。  恥ずかしさではなく、嬉しさの滲み出る表情。  そんな顔に、ああこれは伝わっていないとすぐに悟った。  俺の『好き』は友達の『好き』じゃないんだ。今日のような事をたくさんしたい、そういう『好き』なんだぞ? 本当に、分かってんのか? 「嬉しい」  何も分かっていなさそうな呑気なこいつは、そう言うと俺に抱き着いてくる。  おかげで情けない顔は見られずに済みそうだが、俺は何だか泣きたくなっていた。 (約束、破っちまったな)  爽良の背中に手を回しながら、情けない顔のまま、ふとそんな事を思った。

ともだちにシェアしよう!