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爽良の奮闘③

「んっ、ん……ぁんっ、ふっ」  ここは学校だから声を抑えなければならない、でもこんな事されて、声を抑えるなんて無理だ。  極力頑張ってはいるのだが、それでも微かに漏れてしまう。  李樹の舌遣いは巧みだ。  オレが翻弄されすぎなのか、息つく間もなく絡まれる舌に、容易くオレは息を荒げる。 「ったく、ダメだろ? そんな可愛くキスしてくるとか。もっとしたくなるだろうが」 「……も、もっと、しても良いぞ?」 「煽りやがって、小悪魔かよ」  冗談のような口調で言いながらも、李樹はまた唇を重ねてくれた。  李樹は、オレからキスしない限りキスしてくれない。こうして最初にオレがキスして、すると深いキスをしてくれるのだが、オレがスタートを切らないとそういう雰囲気でもその雰囲気を無視してしまう。  まだ、戸惑っているのだろうか?  オレと、男と付き合う事に。  男女のカップルではリードするのは普通男だろう。だが男同士では、その辺が曖昧になる。  オレを女扱いするのに気を遣っているのだろうか。  一度始めると容易く主導権を握るくせに、その始めのタイミングはオレ任せ。  一体、李樹の中でオレはどういう扱いになっているんだ?  男女のカップルでも、男からでも女からでもキスするもんだろ? なのに、なんでしてくれないんだよ?  こんなに幸せで満たされてるのに、こうしてたまに不安になったりもする。  お前は、オレが好きなんだよな?  オレたち、付き合ってるんだよな?  ならもっと積極的に来てほしい。  もっとキスがしたい、それ以上の事だって、たくさんしたい。  こんな、オレ次第ではなく、李樹からキスされたい。  だからオレは――とりあえず、見た目だけでも女っぽくなろうと努力することにした。 「はぁ、はぁ……なあ李樹、これ」 「これ、って……ヘアゴム? なんで?」 「お前に、つけてもらいたくて」  オレは髪が長い方だ。前髪を伸ばしているから当然だが、全体的に長く、肩に完全にかかっている。  切れば良いのに、とはよく言われる。  だが中学の時に良くからかわれたこの瞳を、隠したいと思うのは当然だろう。  容姿を気味悪がられても良いから、瞳だけは見られたくない。  なので前髪を残したまま、オレはハーフアップに手で髪を上げ後ろを向いた。 「結んでくれ、李樹」 「……自分で、やれば良いだろ?」 「それだとちゃんと結べない。早くしてくれ、昼休みが終わるだろ?」 「……ったく、じゃあ触るぞ」  コクリと頷くと、李樹がそっと髪に触れてきた。  まるで大切な物に触れるように優しく触ってくるから、ぞわぞわと少しくすぐったい。  手を外したオレの髪束を李樹はまとめ、可愛い星の付いたゴムで李樹はオレの髪を結んだ。

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